カテゴリー別アーカイブ: 個人保証制度の見通し

個人保証と融資慣行

国は、個人保証に頼らない融資慣行の確立を目指した制度変更を次々と行っています。

 ・ 平成17年 包括根保証禁止
 ・ 平成18年 信用保証協会 第三者連帯保証人原則禁止
 ・ 平成23年 銀行 第三者連帯保証人 原則禁止
 ・ 平成25年6月 政府 個人保証の見直しを閣議決定

従来は、代表者だけでなくその他の役員や第三者の個人保証を拠り所として融資が行われてきました。それが民法改正をきっかけとして、代表者以外の第三者の個人保証が原則禁止され、さらに代表者の個人保証見直しの機運が高まりを見せています。経営者の43%が個人保証を重荷だと感じている事実を踏まえれば、経営者にとって望ましい変化だといえます。

一方、これらの制度変更は中小企業の資金調達力を削ぐものだという指摘があります。第三者の個人保証を拠り所とした資金調達ができなくなったからです。しかし、これらの制度変更は、銀行が新たな融資手法を編み出すきっかけにもなっています。動産担保融資や債券担保融資がそれです。新しい融資手法の運用環境がすべて整備されるまで少し時間がかかりそうですが、人的担保に頼らない融資慣行は着実に確立されつつあります。

新しい融資慣行では、人(経営者)ではなく事業(会社)にお金を貸すことが明確になります。その時、銀行から資金調達できるように準備しておく必要があります。

個人保証の基礎知識

経営者が行う個人保証は、根保証による連帯保証が一般的です。根保証とは極度額(保証上限額)と期間(5年以内)を定めた保証のことです。保証人である経営者は、定められた期間内に発生した会社借入金のうち、極度額を上限に保証債務を負うことになります。また連帯保証とは、経営者が債務者である会社と全く同じ責任を負うことをいいます。

根保証で定められた期間の最終日を元本確定期日といいますが、元本確定期日を過ぎても保証債務がなくなるわけではありません。仮に元本確定期日の更新をしなかった場合、その日以後に発生した債務に関して保証債務を負うことはありませんが、それ以前の定められた期間内に発生した会社借入金に関しては全て返済されるまでは保証債務を負うことになります。

仮に元本確定期日の更新をしなかった場合、それ以前の定められた期間内に発生した手形貸付を元本確定期日を過ぎてから書き換えを行った場合でも、その手形貸付は継続していると取り扱われていることが多いため、その場合は保証債務から逃れることはできません。もちろん、元本確定期日を過ぎてから手形貸付をいったん返済し、新たな手形貸付を発生させた場合は、その新たな手形貸付に関して保証債務を負うことはありません。

極度額と期間が定められた根保証による保証債務は相続によって承継されます。相続人が保証債務を引き受けたくない場合は相続の限定承認や相続放棄、その他の法的措置を講ずる必要があります。

個人保証を解除するのは極めて困難だと考えられています。ただし、経営者以外の第三者に関しては、下記の一定の条件の下、解除できることもあります。

 ・ 今後、その第三者が会社経営に関与しないこと
 ・ その第三者による会社への出資関係が解消されていること
 ・ 会社の財務内容が良いこと
 ・ 十分な物的担保が提供されていること
 ・ 代わりの連帯保証人を立てること

個人保証ともう一つのハッピーリタイヤ

後継者がいない経営者はハッピーリタイヤすることができるでしょうか。経営者に後継者がいない場合、経営者は廃業か事業譲渡によってリタイヤするしかありません。しかし、財務内容が悪化している場合はリタイヤすることすらできない状況に追い込まれてしまいます。

会社を廃業するには、従業員に退職金を支払い、取引先に対する債務を精算し、会社借入金を完済しなければなりません。財務内容が悪化している場合は会社財産でそれらの支払いをすることができないため、経営者個人の財産で補てんする必要があります。個人保証をしているからです。リタイヤ後の生活に困ることも考えられるため、廃業という選択肢を選べないケースがあります。

事業譲渡する場合も同じです。会社財産や事業価値を超える借入金の引き継ぎは拒否されるため、財務内容が悪化している場合は、経営者個人が保証債務を履行しなければなりません。個人保証をしているからです。そのため、事業譲渡という選択肢を選べないケースがあります。

では、後継者のいない経営者がハッピーリタイヤできないかというと、そうではありません。財務内容が良好であれば廃業することも事業譲渡することもできます。個人保証をしていても会社の財務内容が良好であればマイナスにはならないのです。そして、個人保証を外せる程度に財務内容が良ければ、より高い金額で事業譲渡することができます。後継者がいる場合と比べてリタイヤ後の生活環境に変化がある分次善の策ではありますが、もう一つのハッピーリタイヤだと言えるのではないでしょうか。

個人保証とハッピーリタイヤ

帝国データバンクの調査(2013年)によると、オーナー企業の69%が後継者不在であり、65歳以上のオーナー社長の49%が後継者問題を抱えています(広島県は75%が後継者不在)。オーナー社長からしてみれば、ご子息が後継者として会社を継ぐのは当たり前だとお考えになっているかもしれません。しかし、ご子息はそう思っていないということです。

その原因の一つとなっているのが個人保証だといわれています。経済環境が厳しい中、過大な債務を抱える企業を個人保証してまで引き継ぐことにご子息が二の足を踏んでいるというのです。あまつさえ「創業は易く守成は難し」といわれ、事業を先代から引き継ぐことは難しく、後継者は様々な困難に直面します。その困難に、個人保証という精神的な重荷を背負いながら立ち向かうことに躊躇するのはむしろ当然かもしれません。

平成25年6月、政府は経営者の個人保証制度の見直しを閣議決定しました。平成25年9月に有識者会議を発足させ、年末を目途にガイドラインを策定する予定です。ガイドラインでは、経営者に個人保証を求めない要件として次の要件が示される見込みです。

① ガバナンスの強化
・経営者の財産債務と会社の財産債務が明確に区分されていること
・経営者の役員報酬、株主配当金、経営者への貸付金が社会通念上合理的であること

② 財務基盤の強化
・会社の収益力で借入金の返済が可能であること
・物的担保が十分に提供されていること

③ 経営の透明性の確保
・財務状況を正確に把握し、適時適切に情報開示すること

御社に財務のスキルがあれば、ガバナンスを強化することも、財務基盤を強化することも、経営の透明性を確保することもできます。個人保証を外すという選択肢を後継者に与え、入口のハードルを下げてやることは十分に可能なのです。また、これらの財務的な取り組みの効果は個人保証を外す目的にとどまらず、中小企業の活力を引き出す効果も期待できます。これらの財務的な取り組みをしている企業の業績が悪かろうはずがないからです。

オーナー企業の経営者にもいずれリタイヤする時期がきます。その時、会社を引き受けてくれる後継者がいれば安心してリタイヤすることができます。オーナー企業の経営者が思い描く「70歳までに社長の座を後継者に譲り、自分は後見役として会長職に留まり、悠々自適な老後を送る」というハッピーリタイヤを実現するにはそれに向けた取り組みが必要です。それは後継者のためではありません。経営者ご自身が有終の美を飾るための取り組みなのです。

個人保証を外す方法

中小企業が銀行融資を受ける際、経営者の個人保証が融資慣行として定着していますが、もし個人保証を外す方法があれば取り組んでみたいとお考えになっている経営者は多いのではないでしょうか。中小企業庁の調査(2013年)によれば、経営者の43%が個人保証を「精神的な負担が大きい」と感じ、26%が個人保証のために「経営陣の世代交代が難しい」と感じています。

今現在、個人保証を外す確実な方法は借入金の完済しかありませんが、経営者の個人保証を見直す機運が高まっています。それは近年、保証人保護の観点から保証制度の変更がいくつか行われたことからも伺えます。

  • 平成17年(2005年)4月、民法改正により包括根保証が禁止され、金額や期間に制限のない保証契約が禁止されました。

  • 平成18年(2006年)4月、信用保証協会が経営者以外の第三者保証人を求めることが原則として禁止されました。

  • 平成23年(2011年)7月、金融庁の監督指針で、銀行が経営者以外の第三者連帯保証人を求めることが原則として禁止されました。

これらの制度変更は、経営者が無制限に責任を負わされることや、経営にタッチしない第三者が責任を負わされることを禁じたものですが、今年に入り、経営者自身の個人保証を見直す提言がなされています。

平成25年(2013年)5月、中小企業庁と金融庁が共同で「中小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」を公表しました。この報告書によると、個人保証に依存しない融資慣行を築くために、中小企業の「経営の高度化を図っていくことが重要」であるとし、具体的な取り組みを例示しています。

  • 法人の事業資産と経営者個人の資産を明確に分離する

  • 法人と経営者の間の資金のやり取り(役員報酬・配当・貸付など)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする

  • 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る状態とする

  • 経営者等から十分な物的担保を提供する

  • 中小企業から適時適切に財務情報を提供する

中小企業が、企業のガバナンスと財務基盤を強化し、経営の透明性を確保すれば、個人保証による信用補完が不要になるばかりでなく、中小企業の活力が引き出され、創業・事業承継・事業再生といったそれぞれの課題の克服につながると提言しています。

具体的な例示をご覧になってどう感じたでしょうか。今すぐは困難でも、計画的に取り組めば十分にクリアできると思われたのではないでしょうか。御社に財務のスキルがあれば、財務基盤を強化することも、経営の透明性を確保することもできます。将来的に制度が整えば、個人保証を外すことは十分に可能なのです。

この報告書を受け、平成25年6月、政府は成長戦略の一環として個人保証の見直しを閣議決定しました。平成25年9月に有識者会議を発足させ、年内を目途にガイドラインを策定する予定となっています。