カテゴリー別アーカイブ: 経営者保証ガイドライン

経営者保証に関するガイドラインの意義

このガイドラインの意義は以下の通りです。

  1. 個人保証制度が合理的な制度になる

  2. 経営者がリスクを取りやすくなる

  3. 経営者が早期に廃業しやすくなる

今までの融資慣行では、主に不動産担保と経営者保証が融資の拠り所でした。預金者保護・株主代表訴訟の観点から、これ以外に客観的で納得性の高い拠り所がないとされてきたからです。そのような状況の中、保証人保護の社会的要請や中小企業成長戦略の政策的な観点から新たな融資の拠り所が求められていました。このガイドラインは新たな融資の拠り所を国家的な政策として明示し、一律に悪平等で求められてきた個人保証制度を中小企業の個々の事情に合わせる合理的な制度に転換するものです。

このガイドラインでは、従来の不動産担保や経営者保証だけでなく、規律ある経営・良好な財務内容・適時適切な企業状況の開示等が融資の拠り所となることを示唆しています。あるいは、停止条件付保証契約・解除条件付保証契約・ABL(動産・債権担保融資)・金利の一定の上乗せ等の経営者保証を代替する機能が融資の拠り所となることを示唆しています。中小企業にとって、個々の事情や方針に見合った融資の拠り所を選択可能となることが第一の意義といえます。

また、個人保証をする場合に合理的な保証金額を設定することが明記された点も重要です。今までは企業業績に関わらず、借入総額の2割増しの金額を保証するのが一般的でした。今後は、物的担保を提供している場合には融資総額からその換金価値を差し引いた残額について保証することになります。

この取扱いにより、経営者は自分自身が負っているリスクを計算することが可能になります。不動産担保が十分な中小企業では保証金額が発生しないケースも出てくるのではないかと思います。そういう場合は経営者が新しい事業にチャレンジしやすいといえるでしょう。そもそも、企業の業績に応じて経営者自身のリスクが増減することは経営者にとって納得性が高いことです。自分のリスクをコントロールしながら委縮することなく新しい事業にチャレンジする経営者は増えるのではないでしょうか。少なくとも安倍政権が掲げる成長戦略の狙いはここにあります。

一方、事業はリスクがある以上、業績が悪化し、厳しい局面を迎えることもあります。回復する見通しがほとんどない場合であっても、経営者は可能な限り企業の延命を図ろうと努力します。経営者保証をしているため、企業の破綻は自分自身の破綻を意味するからです。自己破産手続きをした場合、自由財産として経営者の手元に残されるのは、家財道具と99万円の現金だけです。経営者は廃業したいと思っていても、廃業できない状況に追い込まれてしまうことがあるのです。特に、中小企業の経営者の69%は後継者が不在であり、高齢の経営者が廃業できないことは深刻な問題となっています。

今後は、このガイドラインに沿って保証債務を整理することで、自由財産を超える資産が残存資産として経営者の手元に残される可能性があります。失業保険の支給期間基準に基づく現預金と華美でない自宅が手元に残されるならば、回復の見込みのない事業を廃業して再起を図ることや、高齢のために廃業して年金で生活していくこともできます。回復の見込みのない事業を早期に廃業し、やり直すことができるようになるのです。

平成25年6月14日に閣議決定された日本再興戦略では、開・廃業率10%台を目指すための施策としてこのガイドラインが位置づけられています。この割合は現状のほぼ2倍の規模であり、年間で40万社(法人・個人)の開廃業を想定しています。

保証債務を整理する時の留意点

1、申立て時期により、残存資産の取扱いが異なります

  • 主たる債務(中小企業の債務)の整理手続の終結後に保証債務の整理を開始した場合、残存資産の範囲は自由財産の範囲に限られます。

  • 保証債務の整理申立てが主たる債務の整理申立てと同時か、遅くとも、主たる債務の整理手続の係属中である場合は、自由財産の範囲を超えた資産について保証人の残存資産に含めることを検討することができます

「主たる債務の整理手続の終結後」とは次の時点を指します。

  • 準則型私的整理手続による場合は、主たる債務の全部または一部の免除等に関して成立した関係者間の合意の効力が発生した時点

  • 法的債務整理手続による場合は、主たる債務に関する再生計画等が認可された時点またはこれに準じる時点

2、守秘義務があります

主たる債務者である中小企業、保証人たる経営者、債権者たる金融機関は、保証債務の整理の過程において、共有した情報について相互に守秘義務を負います。

3、表明保証の義務があります

保証人は、保証人の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証することが前提とされています。万一、表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合、免除された保証債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済することになります。表明保証が事実と異なることには、保証人の資産の隠匿を目的とした贈与が判明した場合も含まれます。また、保証人の過失によって事実と異なる場合も含まれます。

4、事故情報の登録は行われません

このガイドラインに基づいて債務整理を行った保証人に関して、債権者である金融機関は信用情報登録機関に報告、登録しないこととされています。

残存する保証債務の取扱い

以下の全ての要件を充足する場合には、債権者である金融機関は、保証人から保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請について、誠実に対応することとされています。

  • 保証人は、全ての債権者に対して、保証人の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証を行うこととし、弁護士等の支援専門家は、債権者からの求めに応じて、当該表明保証の適正性についての確認を行い、債権者に報告すること

  • 保証人が、自らの資力を証明するために必要な資料を提出すること

  • 主たる債務および保証債務の弁済計画が、債権者にとっても経済合理性が認められるものであること

  • 保証人が開示し、その内容の正確性について表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合には、免除した保証債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済を行うことについて、保証人と債権者が合意し、書面での契約を締結すること

保証債務を整理する時の残存資産

債権者である金融機関は、保証債務の履行に当たり、保証人の手元に残すことのできる残存資産の範囲について、以下のような点を総合的に勘案して決定します。

  1. 保証人の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況

  2. 主たる債務が不履行に至った経緯等に対する経営者たる保証人の責任度合

  3. 経営者たる保証人の経営資質、信頼性

  4. 経営者たる保証人が主たる債務者の事業再生、事業清算に着手した時期等が事業の再生計画等に与える影響

  5. 破産手続における自由財産の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性

上記4.に関連して、以下のような要件を充たす場合は、破産手続おける自由財産に加えて、一定期間の生計費に相当する現預金や華美でない自宅等を、経営者たる保証人の残存資産に含めることを検討することとされています。

  • 経営者たる保証人が、主たる債務者である中小企業の事業再生の実効性を高めるために、早期に事業再生等に着手した場合。経営者が事業継続する場合や新規事業を開始する場合だけでなく、経営者を退任する場合や新規事業を開始しない場合も含まれる

  • 債権者である金融機関にとっても一定の経済合理性が認められる場合

一定期間の生計費に相当する現預金は、以下の雇用保険の給付期間の考え方を参考にします。1か月当たりの生計費は、33万円が想定されています。(クリックで拡大)

経営者保証1

破産手続における自由財産とは以下の通りです。

  • 債務整理の申出後に新たに取得した財産

  • 家財道具等の差押禁止財産

  • 現金(99万円)

  • 実務的に自由財産の範囲の拡張が認められる財産

保証人は、安定した事業継続のために必要な一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅等について残存資産に含めることを希望する場合は、その必要性について、債権者である金融機関に説明することとされています。

保証債務を整理する時の経営責任の在り方

このガイドラインに基づく保証債務の整理は、原則として「準則型私的整理手続」が利用されます。準則型私的整理手続とは、中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等をいいます。

中小企業の経営者がこのガイドラインに基づく保証債務の整理を申し出た場合、経営責任について一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこととし、以下のような点を総合的に勘案し、経営者が引き続き経営に携わることに一定の経済合理性が認められる場合には、これを許容することとされています。

  • 主たる債務者が経営困難に陥った原因とその原因に対する経営者の責任度合

  • 経営者及び後継予定者の経営資質、信頼性

  • 経営者の交代が主たる債務者の事業の再生計画等に与える影響

  • 準則型私的整理手続における債権者による金融支援の内容

なお、経営者が引き続き経営に携わる場合は以下のような経営責任の明確化を図ることとされています。

  • 保証債務の全部または一部の履行

  • 役員報酬の減額

  • 株主権の全部または一部の放棄

  • 代表者からの退任 等

前経営者の個人保証の解除

事業承継時に、前経営者が個人保証の解除を求める場合は、実質的な経営権・支配権を有していないことを示すために、以下に掲げるような対応が求められます。

  • 代表者から退くこと

  • 法人から報酬等を受け取らないこと

  • 支配株主に留まらないこと

  • 法人から借入金がある場合は返済すること

  • 前経営者が担保提供していた資産と同等程度の担保が後継者から提供されること 

経営者保証を求める場合の対応

債権者である金融機関が、主たる債務者である中小企業の経営者に対して、経営者保証を求めることがやむを得ないと判断した場合等は、以下の対応に努めることとされています。

1、丁寧かつ具体的な説明をする

  • 経営者保証を求めない可能性のある経営状況の要件に関して、どの要素のどの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか等、保証契約の必要性

  • 原則として、保証履行時の履行請求は、一律に保証金額全額に対して行うのではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で、履行の範囲が定められること

  • どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるのか

  • 経営者保証の必要性が解消された場合には、保証契約の変更・解除等の見直しの可能性があること

2、適切な保証金額の設定をする

  • 形式的に保証金額を融資額と同額とはせず、保証人の資産及び収入の状況、融資額、主たる債務者である中小企業の信用状況、物的担保の設定状況、主たる債務者である中小企業及び保証人たる経営者の適時適切な情報開示姿勢を総合的に勘案して設定する

  • 物的担保等の債権保全の手段が用いられている場合は、その手段によって確実に保全される額を融資額から控除した額を保証金額とする

これらの対応は、主たる債務者である中小企業の以下に掲げるそれぞれのステージで行われることになります。

  • 経営者保証を提供することなしに資金調達を希望する場合

  • 既存の保証契約の解除等の申し入れを債権者たる金融機関に行う場合

  • 後継者が事業承継する時

経営者保証を求めない可能性の検討

債権者である金融機関は、主たる債務者である中小企業において以下のような要件が将来に亘って充足すると見込まれるときは、経営状況、資金使途、回収可能性を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性を検討するよう要請されています。

  1. 法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている

  2. 法人と経営者の間の資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない

  3. 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断しうる。または、これを補完するものとして経営者等から十分な物的担保の提供がある

  4. 法人から適時適切に財務情報等が提供されている

取締役会の適切な牽制機能の発揮や監査体制の確立等、社内・社外からのガバナンスが十分に働いており、将来に亘って要件を充足する蓋然性が高いと考えられる場合は、経営者保証を求めない可能性が高まるものと考えられています。

一方、ガバナンスが十分でない場合は、将来に亘って要件が充足されることを担保するため、経営者保証の機能を代替する融資手法の活用を検討することになります。

  • 特約条項を付した停止条件付保証契約(注1)または解除条件付保証契約(注2)の活用

  • ABL(動産・債権担保融資)の活用

  • 金利の一定の上乗せ

これらの検討は、主たる債務者である中小企業の以下に掲げるそれぞれのステージで検討されることになります。

  • 経営者保証を提供することなしに資金調達を希望する場合

  • 既存の保証契約の解除等の申し入れを債権者たる金融機関に行う場合

  • 後継者が事業承継する時

(注)

  1. 停止条件付保証契約とは、主たる債務者である中小企業が特約条項に抵触しない限り保証債務の効力が発生しない保証契約のこと

  2. 解除条件付保証契約とは、主たる債務者である中小企業が特約条項を充足する場合は保証債務の効力を失う保証契約のこと

経営者保証を求めない可能性がある経営状況の要件

債権者である金融機関が、主たる債務者である中小企業の経営者に個人保証を求めない可能性がある経営状況の要件は次の通りです。

① 法人と経営者との明確な分離

  • 法人の事業用資産(本社・工場・営業車等)が経営者個人の所有となっている場合、それを解消すること。ただし、(1)その資産が法人に担保提供されている場合(2)契約によって資産処分が制限されている場合(3)自宅兼店舗、自家用車兼営業車など明確な分離が困難な場合、などは社会通念上適切な範囲の賃料が支払われていれば実質的に法人と個人が分離されていると考えられます。賃料が社会通念上適切な範囲であるかどうかは債権者である金融機関が判断します。

  • 経営者の役員報酬、株主への配当が社会通念上適切な範囲内であること。社会通念上適切な範囲であるかどうかは債権者である金融機関が判断します。

  • 法人から経営者への貸付等による資金の流出がないこと。

  • 経営者個人の消費(飲食代等)について法人の経費処理としないこと。

  • 取締役会による牽制機能の発揮、会計参与の設置、外部を含めた監査体制の確立等による社内管理体制が整備されていること。

  • 「中小企業の会計に関する基本要領」「中小企業の会計に関する指針」など信頼性のある計算書類が作成され、債権者である金融機関に対して定期的に財務情報が報告されていること。

  • 上記の項目に関して、公認会計士・税理士等の外部専門家による検証の実施と、検証結果の適切な開示がなされることが望ましい。

② 経営基盤の強化

  • 経営者個人の資産を債権保全の手段として確保しなくても、法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断しうる財務状況であること。以下に例示する状況であること。

  • 業績が堅調で、十分なキャッシュフローと十分な内部留保があること

  • 業績が不安定でキャッシュフローが不十分あっても、内部留保が潤沢で借入金全額の返済が可能と判断できること

  • 内部留保は不十分であっても、業績が好調で今後も借入を返済するだけのキャッシュフローを確保する可能性が高いこと。

③ 経営の透明性確保

  • 主たる債務者である中小企業は、債権者たる金融機関からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明すること。

  • 主たる債務者である中小企業は、その貸借対照表(勘定明細を含む)、損益計算書(売上原価・販売費明細等を含む)、事業計画、業績見通し及びその進捗状況(試算表・資金繰り表等)を、年に1回の本決算の報告だけでなく必要に応じて適時適切に開示すること。

  • 経営者は、その資産負債の状況を債権者たる金融機関に開示・説明すること。経営者が保証人になっていない場合でも、法人個人の一体性の解消が継続されているか確認する必要がある場合等において債権者たる金融機関から情報開示の要請があれば、開示・説明することが望ましい。

金融機関が中小企業に経営者保証を求めない可能性を検討する際は、できるだけ多くの要件を充足することが望ましいと考えられますが、必ずしも全ての要件の充足が求められるものではなく、個別の事案ごとに、要件の充足状況に応じて判断されることになります。

経営者保証に関するガイドラインの適用対象

1、対象

  • 個人事業主
  • 中小企業・小規模事業者
  • 中小企業基本法に定められた中小企業・小規模事業者の範囲を超える企業

2、対象となる債権者

  • 金融機関等
  • 信用保証協会
  • 債権回収会社(サービサー)
  • 公的金融機関等

3、対象となる金融債権

  • 銀行取引約定書に基づくもの
  • 金銭消費貸借契約に基づくもの

4、対象となる保証契約(以下の全ての要件を充足する保証契約)

  • 保証契約の主たる債務者が中小企業であること
  • 保証人が個人であること
  • 保証人が主たる債務者である中小企業の経営者であること。または、実質的な経営権を有している者・営業許可名義人・経営者と共に事業に従事する当該経営者の配偶者・経営者の健康上の理由のために保証人となる事業承継予定者であること。あるいは、積極的に保証の申出をした協力者・支援者であること。
  • 主たる債務者である中小企業が、債権者たる金融機関の請求に応じ、自らの財産債務の状況等を適時適正に開示していること
  • 保証人たる経営者等が、債権者たる金融機関の請求に応じ、自らの財産債務の状況等を適時適正に開示していること
  • 主たる債務者である中小企業及び保証人たる経営者等が反社会的勢力でなく、そのおそれもないこと