企業の成長戦略と財務のスキル


財務スキルの重要性は資金調達に留まりません。近年は財務計画に基づいた経営手法で成長している中小企業が出現し始めました。経営手法としての財務計画といえば中期経営計画が連想されますが、ただ闇雲に型どおりの中期経営計画を立てても効果がないばかりか、社内を混乱させるだけに終わることもありますので注意が必要です。

財務計画で大事なことは、目的をはっきりさせることです。目的意識をもつということは、現状認識するということでもあります。つまり、企業の経営課題を明確にし、最優先の経営課題に的を絞って財務計画を立案しなければ効果がありません。言い換えれば、企業の状況に応じて臨機応変に財務計画を立案することが重要です。

 

企業が赤字を計上している場合、あるいは過去の赤字が累積した結果、債務超過に陥っている場合は、赤字解消が最優先の経営課題となります。この段階で、企業の成長を目指す中期経営計画を立案しても、現実的にはうまくいきません。なぜなら赤字は、需要減少や競争激化による収益力の低下が原因であり、収益力を強化する政策を思いつかないからこそ赤字に陥っているのです。この場合には、収益力に対して過剰となっている人件費、設備、借入金などのコストを削減する財務計画が必要です。コスト削減によって赤字から黒字に転換する道筋を銀行に示し、企業を継続させることが最優先の段階です。この財務改善計画の最大の効果は、収益力を強化する政策を思いつくまでの時間を稼げるということです。

財務改善が功を奏し、黒字基調となった企業が次に目指すべきなのは、収益力を強化して事業基盤を盤石にすることです。収益力を強化するには、顧客の拡大、商圏の拡大、商材の拡大、M&Aによる規模の拡大、新規事業への進出、積極的な広告戦略、新しい人材の獲得、地域密着型の深化、など様々な政策が考えられます。経営者は自社の経営資源を考慮しながら収益力を強化する政策を定めなければなりません。それはすなわち、企業のあるべき姿を描くということに他なりません。

企業のあるべき姿を実現するための計画が、経営計画とよばれる財務計画です。経営計画では、収益力を強化する政策を実行した場合に、数年先に達成されるべき売上高の水準と利益の水準を目標として定めます。その目標を達成するために必要な活動内容を洗い出し、スケジュールに合わせて各拠点、各部門、各部署、最終的には従業員一人一人に割り振ります。その後、計画した予算と実績を毎月管理することで、予定通りに事業運営できているかチェックし、必要に応じて計画の修正を図りながら最終的な目標の達成を目指します。経営計画の利点は、努力が具体的な行動として定義され、取り組みの結果が数値目標との比較で客観的に評価されるため、従業員のモチベーションを高く保つ効果があることです。また、経営の透明性が高まることで銀行の支援を得られやすくなります。

一方、経営計画で最も重要なことは、収益力を強化するストーリーに説得力があるかどうかです。ストーリーに説得力があるということは実現可能性が高いと予見できることをいいます。従業員は、新しい取り組みに反発するのが常ですから、従業員の納得性を高める説得力のあるストーリーが必要なのです。

経営計画が成長戦略の根幹だとすれば、設備投資計画は成長戦略に栄養を送る枝葉だといえます。設備投資計画とは、設備の取得に伴う将来の収益費用を合理的に見積もり、資金調達や人員配置などを判断するための財務計画をいいます。設備投資計画で重要なのは実現可能性です。特に収益の見積もりは保守的に行う必要があります。計画期間は長期にわたることも多いため、景気変動、需要変動、技術の陳腐化など収益を下振れさせるリスクを想定しなければなりません。

日本の人口は2005年から減少に転じています。また、大企業が海外に生産拠点を移転させるなど、日本国内の市場規模縮小に歯止めがかかりません。市場規模の縮小は需要の減少と競争の激化をもたらし、中小企業の収益を圧迫する原因となっています。そのような経済環境の下でも、財務的な経営手法を取り入れることで競争力を高めている中小企業が存在します。世の中は大競争社会となっており、その流れを止めることはできません。生き残ることは勝ち残ることでもあり、財務のスキルは勝ち残りに必要不可欠なスキルとなっているのです。