「要注意先(正常債権)」の資金調達力


債務者区分のうち、要注意先は「正常債権に該当する要注意先」と「要管理債権に該当する要注意先」に分けられます。

「正常債権に該当する要注意先」とは、業績が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要するものの、「3か月以上延滞債権」及び「貸出条件緩和債権」には該当しない債務者をいいます。

(「3か月以上延滞債権」及び「貸出条件緩和債権」については別の項で解説しています)

「正常債権に該当する要注意先」に対する貸出金は正常債権として扱われるため、貸倒引当金も比較的少なく、リスク管理債権としての開示も不要です。そのため銀行は「正常債権に該当する要注意先」に対して様々な手法で融資に取組みます。「正常債権に該当する要注意先」にとってみれば「正常先」と同等に様々な資金調達の選択肢を与えられるということです。そういう意味で「正常債権に該当する要注意先」は資金調達力があるといえます。一方、「正常債権に該当する要注意先」は業績や財務内容に問題を抱えている分「正常先」に比べて資金調達力が乏しくなるのはやむを得ないことです。

① 正常な運転資金
正常な運転資金とは、正常な営業を行っていく上で恒常的に必要と認められる運転資金をいい、算式で示すと次のようになります。

正常な運転資金 = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務

「正常債権に該当する要注意先」は、正常な運転資金を容易に調達することができます。

② 年間キャッシュフローの10倍程度
正常な運転資金以外の設備資金を調達する場合は、債務償還年数が10年以内であるかが判断基準となります。債務償還年数とは、有利子負債総額を年間収益力で除したものをいい、算式で示すと次のようになります。

債務償還年数 = 有利子負債総額 ÷ 年間キャッシュフロー
年間キャッシュフロー = 税引後利益 + 減価償却費

すなわち、年間キャッシュフローを10倍したものが借入上限の一つの目安と考えることができます(旧産業再生機構「財務健全化基準」参照)。
しかし「正常債権に該当する要注意先」は業績や財務内容に問題を抱えているため、十分な年間キャッシュフローを生み出せず、設備投資資金を調達できないというケースが発生します。あるいは十分な年間キャッシュフローを生み出せるものの、すでに過大な有利子負債があるために設備投資資金を調達できないというケースが発生します。

③ 優良保証付の資金調達
次に掲げる優良保証を付けられる場合は、容易に資金調達することができます。銀行は信用リスクを回避するため「正常債権に該当する要注意先」の企業に対して優良保証を付けるよう求めることが一般的です。年間キャッシュフローだけで資金調達できない場合に優良保証で信用補完することが想定されます。一方、「正常債権に該当する要注意先」は業績や財務内容に問題を抱えているため、保証機関から保証金額を低く抑制されることがあります。

・公的信用保証機関の保証
・金融機関の保証
・複数の金融機関が共同して設立した保証機関の保証
・地方公共団体と金融機関が共同で設立した保証機関の保証
・上場かつ有配会社等の保証契約に基づく保証

④ 優良担保の処分可能見込額
次に掲げる優良担保を担保提供できる場合は、優良担保の評価額に掛け目を乗じた処分可能見込額が資金調達力の一つと考えられます。年間キャッシュフローや優良保証だけで資金調達できない場合に、優良担保で信用補完することが想定されます。

(優良担保)
・預金
・満期返戻金のある保険
・国債等の信用度の高い有価証券 など
(評価額)
・客観的、合理的な評価方法で算出した時価
(掛け目)
・国債     評価額の95%
・政府保証債  評価額の90%
・上場株式   評価額の70%
・その他の債権 評価額の85%

⑤ 一般担保の処分可能見込額
次に掲げる一般担保を担保提供できる場合は、一般担保の評価額に掛け目を乗じた処分可能見込額が資金調達力の一つと考えられます。年間キャッシュフローや優良保証だけで資金調達できない場合に、一般担保で信用補完することが想定されます。

(一般担保)
・不動産担保
・工場財団担保(土地建物・機械・特許権等一括担保)
・動産担保(棚卸資産、機械設備など)
・債権担保(売掛債権など)
(評価額)
・客観的、合理的な評価方法で算出した時価
(掛け目)
・不動産担保 評価額の70%
・動産担保  評価額の70%
・債権担保  評価額の80%

⑥ 一般保証付の資金調達
次に掲げる一般保証を付けられる場合は、保証能力に応じて資金調達することができます。年間キャッシュフローや優良保証だけで資金調達できない場合に、一般保証で信用補完することが想定されます。なお、現在の融資慣行では代表者の個人保証は一般的に徴求されています。

・十分な保証能力を有する一般事業会社
・個人保証

「正常債権に該当する要注意先」は「正常先」と同等の選択肢を与えられているものの、実質的には通常の営業活動資金以外の設備投資資金を十分に調達することはできません。もし、十分な設備投資資金を調達したいと望むならば、業績を向上させて年間キャッシュフローを向上させる取り組みや、過大な有利子負債を圧縮して債務償還年数を短縮する取り組みを行うことによって、債務者区分を「正常先」に上げることが必要です。御社に財務のスキルが備わっているならば債務者格付を「正常先」に上げることは十分可能です。しかし、財務のスキルが備わっていないことが原因で「正常債権に該当する要注意先」にランクダウンしたのかもしれません。その場合でも、財務専門家の力を借りれば「正常先」にランクアップすることは十分に可能なのです。