リカードの比較優位論が示す貿易の目的


2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン(Paul Robin Krugman,1953-)は貿易の目的に関して次にように述べています。

「実業界でとくに一般的で根強い誤解に、同じ業界の企業が競争しているのと同様に、国が互いに競争しているという見方がある。1817年にすでに、リカードがこの誤解を解いている。経済学入門では、貿易とは競争でなく、相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として、輸出ではなく、輸入が貿易の目的であることを教えるべきである。」(「良い経済学 悪い経済学」日経ビジネス文庫 2008年 172p-173p)

国家における貿易の目的は、豊かに消費するために輸入することである、ということです。「より多く消費すること」=「豊か」という前提があります。

私たちは生産者(財・サービスの供給者)と消費者(財・サービスの需要家)の両面を持っていますが、リカードの比較優位論は消費者としての利害を考えたときに、より豊かに消費するにはどうすべきかを教えています。

一方、リカードの比較優位論は、国内で比較優位の産業に特化することを前提としています。裏返して言えば、国内で比較劣位にある産業を衰退させることを前提としています。つまり、国内で比較劣位にある産業の生産者の利害を損ねる理論です。そのため、国民全体の消費者としての利害と、国内で比較劣位にある産業の生産者としての利害を調整する問題が必然的に生じます。

また、生産者の利害で考えた場合、ある産業の最初のライバルは、他の国内産業だということを示唆しています。国内で比較優位の産業に選ばれることが生き残りの条件だからです。その上で国際的に絶対優位になることが生産者の豊かさを最大化させます。国内で比較優位になるため、国際的に絶対優位になるための原動力は、生産性を高めることです。生産性を高めることが生産者を豊かにするという意味では、リカードの比較優位論は生産者の利害に無関係(ニュートラル)だといえます。

輸出産業の生産者にとって貿易の目的は輸出にありますが、国家における輸出に関して、ポール・クルーグマンは次のように述べています。

「輸出はそれ自体が目的ではない。輸出の必要は国にとって負担である。輸入しようとすると売り手に抜け目なく代金を請求されるので、輸出しないわけにはいかない。」(「良い経済学 悪い経済学」日経ビジネス文庫 2008年 173p)

企業にとっての貿易の意義と国家にとっての貿易の意義の違いを端的に述べています。