
法人化のメリット
事業がある程度大きくなったなら法人化したほうがいいとよく言われます。確かに、法人化のメリットは大きいのですが、闇雲に法人化してもそのメリットを効率的に享受することはできません。
予め法人化のメリットを理解した上で、計画的に法人を設立し、計画的にメリットを享受することが大切です。その第一歩として、法人化のメリットをまとめてみました。
法人化のメリットをまとめると次のようになります。
(1) 信用力が増加する
(2) 節税できる
① 給与所得控除
② 所得の分散
③ 消費税
④ 生命保険
⑤ 退職金
⑥ 損益通算
(3) 老後に備えることができる
① 厚生年金
② 退職金
(1) 信用力が増加する
個人の信用力は財産や社会的地位で判断されることが多いと思います。つまり自分を知っている相手にしか判断できず、不特定多数の第三者に対して客観的に信用力を示す手軽な方法はありません。
法人の信用力は、資金力・収益力・ガバナンス体制の3つで判断されます。資金力は資本金の大きさ、収益力は利益の大きさ、ガバナンス体制は内部牽制機能の有無や働き具合で測定されます。つまり、定款、履歴事項全部証明書、計算書類などで自社の信用力を手軽に提示することが可能です。
法人化すると信用力が増加するというのはそういうことです。
債務超過の法人に信用力はありませんので、資産超過を維持できる程度の資本金は必要ですし、創業当初の赤字は許容されますが、早い時期に黒字転換させる必要があります。
信用力が高まると新規取引先の開拓や資金調達が容易になります。事業の成長に加速をつけたい個人事業主にとって法人化は適した方法です。
(2) 節税できる
① 給与所得控除
法人化すると事業主が受け取る給与は給与所得として課税されます。事業所得の所得控除は65万円が上限ですが、給与所得の所得控除は下限が65万円で上限は220万円です。そのため、同じ所得であっても通常、給与所得のほうが節税になります。
② 所得の分散
所得税は所得が高くなるにつれて税率が高くなるため、税負担が累進的に増加します。法人では、所得を分散させることでそれを回避することができます。具体的には、家族に分散する方法と法人に分散する方法とがあります。
所得を家族に分散する方法は個人事業主でも専従者給与として可能ですが、事前の届出や変更時の届出が必要なため機動的な運用は望めません。また、専従者は配偶者控除や扶養控除の対象外となるデメリットがあります。
法人ではそういうデメリットなしに機動的に所得を家族に分散することができます。もちろん、勤務実態に応じた支給額となりますので、事業を家族に手伝ってもらって所得を家族に分散しましょう。
所得を法人に分散する方法とは、意図的に法人で法人税を納税する方法です。所得税は累進税率であるため、給与所得が一定額を超えると法人税で納税するほうが節税になります。
もちろん、法人に留保された資金を経営者が個人的に使うことはできませんが、自分の意思でコントロールできる資金が増えることに変わりはありません。
③ 消費税
資本金1000万円未満で設立された法人は、1期目の消費税が免税となります。また、1期目の上半期の課税売上高(or給与支払額)が1000万円未満であれば、2期目の消費税も免税となります。
④ 生命保険
個人が負担した生命保険の保険料は所得控除することができますが、最高12万円までと制限されています。その点、法人では制限なく損金にできます。例えばハーフタックスの保険であれば、支払った保険料の1/2が損金となり、その分節税となります。
⑤ 退職金
個人事業主が自分や家族に退職金を支払っても経費になりませんが、法人が自分や家族に退職金を支払うと損金になるため、退職金で節税することができます。
⑥ 損益通算
所得税では事業所得と株式・土地の譲渡損を損益通算することはできませんが、法人税では当然に損益通算することができます。本業に加えて株式投資・不動産投資をする場合は、万一の損失があった場合でも税金分は補てんされるという意味で法人化にメリットがあります。
以上のほかにも、現在、賃貸物件に居住しているならば、法人契約に変更して借上げ社宅とすることで節税する方法もあります。法人化すると節税の余地が大きくなると理解して良いでしょう。
(3) 老後に備えることができる
① 厚生年金
法人化すると社会保険は強制加入なので厚生年金に加入することになります。国民年金だけで老後の生活を送るのは困難ですが、厚生年金ならより多くの年金を受け取ることができます。保険料の負担は当然に増えますが、老後の安心のために現在の消費を少しだけ我慢するのは堅実な人生設計だと思います。
② 退職金
前述したように、法人では生命保険と退職金で節税できるため、効率よく老後の一時金を手にすることができます。具体的には、生命保険で退職金の原資を積み立てます。退職時期が到来したら生命保険を解約し退職金を支給します。解約返戻金は益金となりますが、退職金は損金となるので法人税が課税されることはありません。
また、受け取った退職金は、勤続年数に応じた所得控除後の1/2が課税される仕組みなので、税金の負担が少なくて済みます。効率よく老後の一時金を手にできることが法人化する最大のメリットだと思います。
法人化のデメリットは、設立に登記費用が掛かること(株式会社20万円、合同会社6万円)と、赤字でも支払う税金がある(均等割:広島市の法人は年間71,000円から)ことくらいです。
自分に合った法人形態を正しく選択して計画的に設立し、計画的に運用してやればその程度のデメリットは微々たるものだと思います。