
合同会社とは?
合同会社は、平成18年に施行された会社法により創設された新しい会社形態です。近年は新規に設立される法人の約2割を占める程度に普及しており、その利用は拡大の一途をたどっています。この投稿ではこれから法人の設立を検討している経営者が知っておくべき合同会社に関する知識を紹介しています。
【合同会社の概略】
合同会社とは会社法が定める4つの会社のうちの一つをいいます。合同会社の出資者は社員と呼ばれ、基本的に合同会社を経営します。つまり、会社の所有と経営が一致します。合同会社では社員(=出資者=経営者)の個性が重視され、人的信頼関係に基づいて会社は運営されます。具体的には定款で会社の運営ルールを定め、意思決定は組合的規律が適用されます。その結果として、意思決定が迅速となり、機動的・効率的な会社経営が可能となります。また、法人格を有するため、普通法人として法人税の対象となります。つまり、税務的には株式会社と同じ扱いを受けます。
【株式会社との比較】
合同会社と株式会社とを比較してみると合同会社の特徴が良く分かります。
<設立>
合同会社は、定款を作成し、出資金を払込み、設立登記をして設立します。社員は一人でも設立することができますし、資本金1円でも設立できます。合同会社の定款は公証人による認証が不要なため、その手間と費用が省けます。設立に関する株式会社との比較は次の通りです。
合同会社 |
株式会社 |
|
出資者の最低人数 |
1人 |
1人 |
出資者の責任 |
間接有限責任 |
間接有限責任 |
出資の目的 |
金銭その他財産 |
金銭その他財産 |
出資の最低金額 |
1円 |
1円 |
ペーパー定款の印紙税 |
40,000円 |
40,000円 |
電子定款の印紙税 |
0円 |
0円 |
定款の認証費用 |
0円 |
50,000円 |
設立登記の登録免許税 |
60,000円 |
150,000円 |
出資者の最低人数・責任、出資の目的・最低金額に関して合同会社と株式会社とに違いはありません。一方、設立に係る費用は合同会社60,000円~、株式会社200,000円~と、合同会社の方が手軽に設立できます。
<運営>
合同会社 |
株式会社 |
|
役員の任期 |
なし |
あり(最長10年) |
決算公告義務 |
なし |
あり |
会社機関の設置義務 |
なし |
株主総会、取締役 |
会社の自治 |
定款・組合的規律に基づく自治 |
法律に基づく自治 |
配当に係る純資産額規制 |
なし |
あり |
株式会社の役員には任期があるため、任期満了時には重任登記が必要です。重任登記を怠ると100万円以下の過料が科されます。さらに重任登記を失念して休眠会社となるとみなし解散制度が適用されることもあります。合同会社の役員には任期がないため、そういう手間もコストもリスクもありません。
株式会社は計算書類の決算公告義務があります。決算公告を怠ると100万円以下の過料が科されます。合同会社には決算公告義務がないため、そういう手間もコストもかかりません。
株式会社は、会社の機関として株主総会と取締役を設置する義務があり、会社の意思決定の手続きが法律で定められています。合同会社には会社の機関を設置する義務はなく、会社の意思は原則として社員の過半数で決定します。法律で定められた手続きが不要なため、迅速な意思決定が可能です。
株式会社は法律に基づく自治が求められるのに対して、合同会社は定款に基づく自治、あるいは、組合的規律に基づく自治が認められています。その結果として、意思決定が迅速で機動的・効率的な会社経営が可能となります。
株式会社は純資産額が300万円を下回る場合には配当ができませんが、合同会社にはそういう規制はないため、配当政策の自由度が高いといえます。
合同会社と株式会社を比較してみると、合同会社は株式会社より設立コスト・運営コストが低く、経営の自由度が高い会社形態だとご理解いただけると思います。
【運営していく上で知っておくべき基本的事項】
次に、合同会社を実際に運営していく上で知っておくべき5つの基本的事項を紹介します。
<合同会社の義務>
合同会社の義務として知っておくべき基本的事項は3項目あります。
(会計帳簿を作成・保存する義務)
仕訳帳・総勘定元帳などの会計帳簿を作成し、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、保存する義務
(計算書類を作成・保存する義務)
貸借対照表・損益計算書などの計算書類を作成し、作成した時から10年間保存する義務
(税務申告・納税をする義務)
事業年度終了後2カ月以内に税務申告・納税をする義務
合同会社は、帳簿と決算書を作成し、税務申告・納税すれば義務を全うします。株主総会を招集して株主の承認を得る必要もなければ、議事録を作成する必要もありません。
<社員の義務>
社員の義務として知っておくべき基本的事項は2項目あります。
(善管注意義務)
業務を執行する社員は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行う義務。
(忠実義務)
業務を執行する社員は、法令及び定款を遵守し、合同会社のため忠実にその職務を行う義務
いずれも理念的な行動規範です。
<社員の責任>
社員の責任として知っておくべき基本的事項は4項目あります。
(合同会社の債務を弁済する責任)
社員は、合同会社の財産をもってその債務を完済することができない場合には、出資の価額を上限に、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負います。
(合同会社に対する任務懈怠の責任)
業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、合同会社に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。
(第三者に対する損害賠償責任)
業務を執行する社員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、その社員は、連帯して、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。
(違法な出資払戻額・持分払戻額を返済する責任)
合同会社が違法な出資の払戻し・持分の払戻しをした場合には、その業務を執行した社員は、合同会社に対し、出資・持分の払戻しを受けた社員と連帯して、その出資・持分払戻額に相当する金銭を支払う義務を負います。
任務を怠ったり、第三者に迷惑を掛けたり、違法な出資・持分の払戻しをしなければ、出資の価額が責任の上限となります。合同会社の社員の責任が間接有限責任といわれる所以です。
<社員の権利>
社員の権利として知っておくべき基本的事項は6項目あります
(業務及び財産の状況を調査すること)
社員は、事業年度の終了時又は重要な事由があるときに、合同会社の業務及び財産の状況を調査することができます。
(計算書類の閲覧又は謄写の請求)
社員は事業年度の終了時に、計算書類の閲覧又は謄写の請求をすることができます。
(利益の配当を請求)
社員は、合同会社に対し、利益の配当を請求することができます。
(出資の払戻しを請求)
社員は、合同会社に対し、既に出資として払込み又は給付をした金銭等の払戻しを請求することができます。
(任意退社)
各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができます。
(持分の払戻しを受ける)
退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができます。
一人社員の場合は意識する必要のない権利ばかりですが、社員が複数いる場合は、主宰する社員以外の社員も上記の権利を有することを意識しておいたほうが良いでしょう。
<会社債権者の権利>
会社債権者の権利は5項目あります。
(計算書類の閲覧又は謄写の請求権)
合同会社の債権者は、当該合同会社の営業時間内は、いつでも、その計算書類の閲覧又は謄写を請求することができます。つまり、仕入先や銀行から決算書のコピーを請求されたら拒むことはできないということです。計算書類は事業運営の結果をまとめたものなので、仕入先や銀行から計算書類を請求されることを前提にして事業運営を行う心構えが必要です。
(資本金の減少に関する異議)
合同会社が資本金の額を減少する場合には、合同会社の債権者は、合同会社に対し、資本金の額の減少について異議を述べることができます。合同会社は債権者保護手続きを経たうえで資本金を減少することができますが、債権者から異議を述べられた場合はその債権を返済しなければなりません。
(違法な利益配当に関する求償権)
合同会社の債権者は、違法な利益の配当を受けた社員に対し、債権額を上限として、配当額に相当する金銭を支払わせることができます。
(違法な出資払戻しに関する求償権)
合同会社の債権者は、違法な出資の払戻しを受けた社員に対し、債権額を上限として、出資払戻額に相当する金銭を合同会社に支払わせることができます。
(持分の払戻しに関する異議)
持分払戻額が剰余金額を超える場合には、合同会社の債権者は、合同会社に対し、持分の払戻しについて異議を述べることができます。合同会社は債権者から異議を述べられた場合はその債権を返済しなければなりません。
会社内部の自治は定款・組合的規律による柔軟な運営ができますが、会社外部の債権者に対する義務、責任は法律に従うことになります。つまり、合同会社の債権者に対する義務、責任は株式会社のそれと変わりません。
【定款自治とは】
合同会社は定款自治による運営が認められているので経営の自由度が高いといいました。定款自治とは、定款の定めに基づいて会社が運営されるということであり、仮に会社法の規定とは異なる取決めであっても、それに基づいて会社運営できるということです。具体的には次のような取決めができます。
(業務の決定方法)
会社法では「社員が二人以上ある場合には、合同会社の業務は、社員の過半数をもって決定する」と規定されていますが、別段の定めをすることができます。
(業務を執行する社員の辞任)
会社法では「業務を執行する社員は、正当な事由がなければ辞任することができない」と規定されており、正当な事由があれば辞任できると解釈できますが、別段の定めをすることができます。
(業務を執行する社員の報告義務)
会社法では「業務を執行する社員は、合同会社又は他の社員の請求があるときは、いつでもその職務の執行の状況を報告し、その職務が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」と規定されていますが、別段の定めをすることができます。
(持分の承継について)
会社法では「合同会社は、社員が死亡した場合におけるその社員の相続人がその社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる」と規定しています。社員が欠けたことは解散事由に該当するため、一人社員合同会社の場合は定款に定めが必要となります。
(計算書類の閲覧又は謄写の請求権)
会社法では「合同会社の社員は、当該持分会社の営業時間内は、いつでも、計算書類の閲覧又は謄写の請求をすることができる」と規定されていますが、別段の定めをすることができます。ただし、「定款によっても、社員が事業年度の終了時に同項各号に掲げる請求をすることを制限する旨を定めることができない」と規定されているので、整合性を保つ必要があります。
(利益の配当)
会社法では「合同会社は、利益の配当を請求する方法その他の利益の配当に関する事項を定款で定めることができる」と規定されています。会社法には何ら規定がないため定款に定める必要があります。
(損益の分配)
会社法では「損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定める」と規定されています。つまり、定款に定めてやれば別の割合を損益分配の割合とすることができるということです。
(出資の払戻し)
会社法では「合同会社は、出資の払戻しを請求する方法その他の出資の払戻しに関する事項を定款で定めることができる」と規定されています。会社法には何ら規定がないため定款に定める必要があります。
(定款の変更)
会社法では「合同会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる」と規定されています。定款自治が認められている合同会社にあって定款変更は重要性が高い項目ですが、定款で別段の定めができるほど定款自治が徹底しています。
(存続期間)
会社法では「合同会社は、定款で定めた存続期間の満了によって解散する」と規定されており、その存続期間を定款で定めることができます。
(解散事由)
会社法では「合同会社は、定款で定めた解散事由の発生によって解散する」と規定されており、その解散事由を定款で定めることができます。
合同会社は定款をカスタマイズすることが前提となっている会社形態です。実際、何もカスタマイズせずに会社法の規定だけで運用すると不都合が生じます。例えば、業務は社員の過半数で決定しますが、賛否同数の場合は業務が停滞することになります。また、一人社員の場合に持分承継に関する定めがなければ、一人社員の死亡と同時に合同会社は解散することになります。
ネット等から必要最低限の定款を入手して合同会社を設立するのは相応のリスクが伴います。定款は合同会社を設立するために作成するのではなく、合同会社を円滑に運営するために作成すると認識したほうが良いでしょう。さらに言えば、合同会社を主宰する人にとって都合のよい定款を作成することも可能です。定款自治を最大限に活用することが合同会社を使いこなす鍵といえるでしょう。
【合同会社と株式会社の選択】
最後に、合同会社と株式会社のどちらを選択すれば良いか迷っている読者もいると思うので、その点について私見を述べたいと思います。
合同会社が株式会社より優れている点は、設立・運営が手軽である上に、税法上は株式会社と同じ扱いを受けることだと思います。
一方、合同会社は株式会社より信用力が低いとよく言われますが、私は別の見解を持っています。
信用力の本質は、資金力・収益力・ガバナンス体制の3つです。資金力は資本金の大きさで規定され、収益力は利益の大きさで規定されます。ガバナンス体制は内部牽制機能の有無や働き具合で規定されます。
つまり、資本金が50万円の株式会社より資本金300万円の合同会社の信用力が高く、赤字の株式会社より黒字の合同会社の信用力が高いのは異論のないところです。債権者は履歴事項全部証明書や計算書類で資本金や利益を確認することができるので、この点で合同会社が不利とは言えません。
ガバナンス体制に関しては、会社形態として株式会社が合同会社に優るのは事実です。しかし、中小規模の株式会社においてガバナンス体制はない、というのが世間一般の常識です。ワンマン社長が支配し、株主総会を開催したこともなく、決算公告をしたこともない株式会社は少なくありません。つまり、この点に関しても合同会社が必ずしも不利とは言えないと思います。さらに、ガバナンス体制を担保する取決めを定款で定めることで解決できる問題だと思います。
唯一、合同会社が株式会社より劣る点は、合同会社は会社形態としての知名度が低いため、人材採用に関しては不利だと思います。AmazonやGoogleなど企業ブランド力のある合同会社でなければ、人材が集まりにくいのが実際だと思います。
これらを総合すると、合同会社は、一人もしくは仲間で運営する場合やファミリービジネスに最適な会社形態だと思います。