利益が出てるのに手元資金が増えないのはなぜか?

利益が出ているのに手元資金が増えないのはなぜか?

法人化して間もない顧問先のうち、物品販売業を営んでいる顧問先からの質問で最も多いのが「利益が出ているのに手元資金が増えないのはなぜか?」という質問だ。

その答えは「キャッシュフローはP/L要因だけでなく、B/S要因の影響を受けるから」である。
事例をあげて説明する。

事例1
・あなたは物品販売業を営んでおり、資本金300万円で法人化した
・1月開始時点の現金預金300万円
・1月、商品を現金100万円で仕入れ、現金150万円で販売した
・1月の損益=売上高150万円-売上原価100万円=50万円の利益
・1月のキャッシュフロー=現金預金300万円-仕入代金100万円+売上高150万円=350万円
・今月は手元資金が50万円増えたがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 300万円
 ・利益     50万円
 ・月末現金預金 350万円

利益が増えた分キャッシュフローも増加するというこの事例は直感的に理解できると思う。つまり、利益はキャッシュフローの増加要因となる。そしてもちろんだが、損失はキャッシュフローの減少要因となる。

 

事例2
・2月開始時点の現金預金350万円
・2月、商品を現金100万円で仕入れ、現金150万円で販売した
・今月は営業車両を200万円で現金購入した。
・2月の損益=売上高150万円-売上原価100万円=50万円の利益
・2月のキャッシュフロー
 =現金預金350万円-仕入代金100万円+売上高150万円-車両200万円=200万円
・今月は手元資金が150万円減ったがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 350万円
 ・利益     50万円
 ・車両購入  △200万円
 ・月末現金預金 200万円

手元資金が減った理由は営業車両を現金で買ったからである。つまり、固定資産の増加はキャッシュフローの減少要因となる。

 

事例3
・3月開始時点の現金預金200万円
・3月、商品を現金100万円で仕入れ、現金150万円で販売した
・先月買った営業車両を180万円で売却した
・3月の損益=売上高150万円-売上原価100万円-車両売却損20万円=30万円の利益
・3月のキャッシュフロー
=現金預金200万円-仕入代金100万円+売上高150万円+車両売却代金180万円=430万円

・今月は手元資金が230万円増えたがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 200万円
 ・利益     30万円
 ・車両売却損  20万円
 ・車両売却収入 180万円
 ・月末現金預金 430万円

利益以上に手元資金が増えた理由は、営業車両を売却したからである。つまり、固定資産の減少はキャッシュフローの増加要因となる。また、売却損や減価償却費は支出を伴わないためキャッシュフローの増加要因となる。

 

事例4
・4月開始時点の現金預金430万円
・4月、商品を現金100万円で仕入れ、売掛金150万円で販売した
・4月の損益=売上高150万円-売上原価100万円=50万円の利益
・4月のキャッシュフロー=現金預金430万円-仕入代金100万円=330万円
・今月は手元資金が100万円減ったがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 430万円
 ・利益     50万円
 ・売掛金   △150万円
 ・月末現金預金 330万円

手元資金が減った理由は売掛金で販売したからである。つまり、売掛金の増加はキャッシュフローの減少要因となる。

 

事例5
・5月開始時点の現金預金330万円
・5月、商品を買掛金100万円で仕入れ、売掛金150万円で販売した
・前月の売掛金150万円を回収した
・5月の損益=売上高150万円-売上原価100万円=50万円の利益
・5月のキャッシュフロー=現金預金330万円+売掛金回収150万円=480万円
・今月は手元資金が150万円増えたがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 330万円
 ・利益     50万円
 ・買掛金    100万円
 ・売掛金   △150万円
 ・売掛金回収  150万円
 ・月末現金預金 480万円

買掛金の増加はキャッシュフローの増加要因となる。また、売掛金の減少はキャッシュフローの増加要因となる。

 

事例6
・6月開始時点の現金預金480万円
・6月、商品を現金230万円で仕入れ、そのうち100万円分を売掛金150万円で販売した
・前月の売掛金150万円を回収し、買掛金100万円を支払った
・6月の損益=売上高150万円-売上原価100万円=50万円の利益
・6月のキャッシュフロー
=現金預金480万円-商品230万円+売掛金回収150万円-買掛金支払100万円=300万円
・今月は手元資金が180万円減ったがその内訳は以下の通り
 ・月初現金預金 480万円
 ・利益     50万円
 ・売掛金   △150万円
 ・商品    △130万円(仕入230万円-売上原価100万円)
 ・売掛金回収  150万円
 ・買掛金支払 △100万円
 ・月末現金預金 300万円

商品の増加はキャッシュフローの減少要因となる。

 

1月~6月の損益を集計すると280万円の利益となっている。一方、6月末時点の現金預金は300万円なので期首から手元資金が増えていない。つまり、利益が出ているのに手元資金が増えていない。その理由は「キャッシュフローはP/L要因だけでなく、B/S要因の影響を受けるから」である。

次節以降ではキャッシュフローの増加要因、減少要因をそれぞれまとめて説明したい。

キャッシュフローの増加要因

<P/L要因の事例>
・当期利益
・減価償却費
・固定資産売却損

キャッシュフローを増加させるP/L要因の代表例は当期利益である。これは直感的に理解できると思う。

ところで、当期利益は減価償却費と固定資産売却損を控除した後の利益である。そして、減価償却費と固定資産売却損は支出(キャッシュアウト)を伴わない経費である。だから、キャッシュフロー的には控除前の当期利益に修正してやらなければならない。減価償却費と固定資産売却損をキャッシュフローの増加要因として扱うのはそういう理由である。

そのほか貸倒引当金繰入額や固定資産除却損なども同様の扱いとなる。

<B/S要因の事例>
・売掛金の減少
・商品の減少
・固定資産の減少
・買掛金の増加
・借入金の増加

キャッシュフローを増加させるB/S要因の代表例は売掛金の減少である。売掛金を回収したらキャッシュが増えるのは直感的に理解できると思う。商品や固定資産を売却した場合も同様である。

これらに限らず、B/S項目のうち「資産の減少」はキャッシュフローの増加要因となる。仮払金、前払金、有価証券の減少などが該当する。

一方、B/S項目のうち、「負債の増加」はキャッシュフローの増加要因となる。借入をしたらキャッシュが増加することを考えればイメージしやすいと思う。その他、買掛金、預り金、仮受金、未払金の増加などが該当する。

キャッシュフローの減少要因

<P/L要因>
・当期損失

キャッシュフローを減少させるP/L要因は当期損失である。赤字が出たら手元資金が減るのは直感的に理解できると思う。

<B/S要因の事例>
・売掛金の増加
・商品の増加
・固定資産の増加
・買掛金の減少
・借入金の減少

キャッシュフローを減少させるB/S要因は「資産の増加」と「負債の減少」である。資産が増加すると必ずキャッシュアウトが伴うからである。また、負債が減少すると必ずキャッシュアウトが伴うからである。

結びに

キャッシュフローはP/L要因とB/S要因が複合的に重なり合って増減することが理解できたと思う。

しかし、「理屈は分かったけど、それじゃ資金繰りはどうすればいいの?」とあなたは思ってるかもしれない。私の経験上「利益が出てるのに手元資金が増えない」という相談は資金繰りの不安から生じているからだ。

それに関しては別の記事でアドバイスしたいと思う。