キャッシュフローが増減する理屈は分かったけど、それじゃ資金繰りはどうするの?

承前
この記事は、前回の記事の続きとして起稿する。つまり、あなたは物品販売業を営む法人であることを前提に議論を進める。
前回の記事では、具体的な事例を挙げながら、キャッシュフローはP/L要因だけでなく、B/S要因の影響を受けて増減することを説明した。あなたは一定の理解をしたと思うが「理屈は分かったけど、それじゃ資金繰りはどうすればいいの?」と思ってるに違いない。私の経験上「利益が出てるのに手元資金が増えない」という相談は資金繰りの不安から生じているからだ。
今回の記事では、あなたの不安を解消するちょっとしたアドバイスをしたい。
リスク回避者が陥りやすい誤りとは?
「利益が出てるのに手元資金が増えないのはなぜか?」と質問する顧問先のリスク選好はほぼ間違いなくリスク回避的である。
個人的に、リスク回避的な経営者はビジネスで成功しやすいと考えているが、そういう経営者は、自己資金だけで事業活動を行うことが健全経営と考えがちだ。そして、利益さえ出せば手元資金が増えて資金繰りが楽になると思い込む。
しかし、ご案内の通り、利益が出たからと言って手元資金が増えるとは限らないので「あれっ!?おかしい!?」となるわけである。
これは、リスク回避的な経営者が法人化した初期段階に陥りやすい誤りである。何が誤りかというと、運転資金の返済リスクが高いと考えている点だ。だから自己資金だけで事業活動を行いたいわけである。
この誤解は、運転資金と消費者ローンを混同しているのではないかと思う。消費者ローンは金利が高く、手取り収入から返済しなければならないため返済リスクは一般的に高い。
一方、運転資金は金利が低く、次の2点が充たされれば理論的に返済できる。
・赤字でないこと
・資金使途は運転資金に限定すること(私的流用しないこと、設備を購入しないこと)
赤字でないスパン的には単年度が基本だが、3期押しなべて赤字でなければという考え方も成立する。あなたは個人事業時代に利益を計上していたのではないだろうか?だから法人化して節税したかったのではないだろうか?だとすれば、あなたのビジネスモデルは有効ということだ。つまり、赤字でない要件はあなたにとって低いハードルのはずである。
また、資金使途を運転資金に限定するのは意識すれば誰でもできることである。運転資金を経営者が拝借しなければよいだけだし、あるいは、運転資金で車などを購入しなければよいだけである。
因みに、だから銀行は運転資金を低い金利で貸してくれるのである。返済リスクが一般的に低いからだ。
資金繰りに運転資金は不可欠
あなたは、キャッシュフローはP/L要因だけでなくB/S要因の影響を受けて増減することを理解しているはずである。事業の成長過程においては、商品在庫の増加が売上の増加につながり、売掛金の増加につながる。つまり、事業が成長するほど資産が増加するためキャッシュフローが減少し、資金繰りが苦しくなるのである。
だから、資金繰りのためには運転資金を躊躇なく借り入れなければならない。商品が売れて、売掛金を回収し、赤字にならなければ返済できる借入金である。過度に恐れる必要はないのである。
資金繰り表は作れますか?
ここまでの議論にあなたが納得してくれたと仮定して、それでは、いつ、いくら運転資金を借りればよいか?が次の課題となる。
それを判断するために作成するのが資金繰り表である。
資金繰り表とは、今後3か月間の収入時期と金額を予想し、経常的に発生する仕入、経費を見積り、買掛等債務の支払時期と金額を加味して運転資金の借入時期と金額を決定するための資料のことである。あなたが資金繰り表を作れるなら、それに基づいて借り入れ時期と金額を判断すればよい。
一方、もし現状で資金繰り表を作るスキルがないなら、3か月分の必要経費(仕入・経費)を運転資金として借り入れるというのが便宜的な方法である。この方法は理論的ではないが現実的な方法として機能する。私の顧問先にもこの方法で資金繰りしている先がいくつもある。
運転資金の与信の目安
資金繰りに必要なもう一つの知識として、御社が借りられる運転資金の上限(与信)を知っておいたほうがいい。返済リスクが低いとはいえ、銀行は無制限に貸してくれないからである。
運転資金の与信は、年間売上高実績の3割が上限と理解しておくことを推奨する。その範囲内で事業活動を行い、売上高が増えたらさらに運転資金を上乗せする要領で事業の成長を目論むのが無理のない成長戦略だと思う。
結びに
この記事では、物品販売業を営むリスク回避的な法人経営者に向けて資金繰りに関してアドバイスした。すなわち、資金繰りに運転資金は必要不可欠なのでためらわずに借りること、運転資金の返済リスクは低いこと、資金繰りの便宜的な方法、運転資金の与信の目安に関して言及した。
繰り返しになるが、物品販売業にとって運転資金は必要不可欠である。もし、運転資金が借りられないと最悪の事態を迎えてしまう。それを回避するため、法人化して10年間に達成すべき経営目標が存在する。別の記事でそれをアドバイスしたい。
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