化粧品を他社名義で輸入しても輸入消費税は自社で仕入税額控除できる!?という噂を検証してみる

輸入消費税の取り扱い

外国貨物を保税地域から引き取る者は消費税を納める義務がある(消費税法5条2項)。すなわち、所定の輸入申告書を税関長に提出しなければならず(法47条1項)、課税貨物を保税地域から引き取る時までに輸入申告書に記載した消費税を国に納付しなければならない(法50条1項)。そして、保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された消費税額は、課税貨物を引き取った日の属する課税期間において仕入税額控除する(法30条1項)。

つまり、事業者が納付した輸入消費税は、その事業者において仕入税額控除するのが原則的な取り扱いとなっている。

化粧品の輸入規制

医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器等(医薬品等)は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)により厚生労働大臣の製造販売業又は製造業の許可や登録を受けた者(製造販売業者)でなければ、業としてこれらを輸入してはならないと定められている。

つまり、事業目的で化粧品を輸入できるのは、所定の許可や登録を受けた事業者のみと規制されている。

噂の内容

【商流の概要】
A社は、外国から化粧品を輸入し国内で小売販売している。その際、化粧品は輸入規制があるため、輸入申告書の名義人および仕入書の荷受人は医薬品医療機器等法における製造販売業者であるB社に依頼し、B社名義で輸入手続きをしたのち、B社から輸入貨物を引き取っている。また、通関業務に関してはB社から通関業者に依頼している。

【資金の流れ】
仕入れ代金はA社から国外事業者に直接支払っている。関税、輸入消費税、その他通関に必要な費用はB社がいったん立替払いし、所定の輸入代行手数料を加算してA社からB社に精算払いしている。

【噂の内容】
消費税法では、事業者が納付した輸入消費税はその事業者において仕入税額控除するのが原則的な取り扱いとなっているものの、消費税法基本通達11-1-6において実質的な輸入者側で仕入税額控除する例外的な取り扱いが定められているので、B社に支払った輸入消費税相当額は実質的な輸入者であるA社において仕入税額控除できる。

さて、この噂は本当だろうか?次節以降で検証してみる。

消費税法基本通達11-1-6

消費税法基本通達11-1-6は、商社を実質的な輸入者、加工メーカーを輸入申告者と想定し、商社が実質的に輸入した貨物に係る輸入消費税に関して、商社側で仕入税額控除する取り扱いを定めた通達である。

もう少し詳しく説明する。

国内の加工メーカーは、外国から穀物などを輸入する際、一定の数量まで関税が軽減される割当てを受けることができる。また、この関税の軽減を受けるためには、割当てを受けた加工メーカーの名義で輸入申告しなければならない。この申告を限定申告といい、加工メーカーを限定申告者という。消費税法基本通達11-1-6は限定申告に関する例外的な規定である。

限定申告においては限定申告者の名義で輸入申告することになるが、実際の輸入業務は商社に依頼するケースが多い。そういうケースで次の要件を充たす場合に、輸入消費税を商社側で仕入税額控除する取り扱いを定めたのが消費税法基本通達11-1-6である。

① 商社が課税貨物を輸入申告後に加工メーカーに対して有償で譲渡する
② 商社が輸入消費税を負担する
③ 商社が輸入許可証などの原本を保存する

噂の検証

まず、消費税法基本通達11-1-6は限定申告に関する例外的な規定である。限定申告の対象となる外国貨物は関税定率法の別表に限定列挙されているが、化粧品は記載されていない。つまり、化粧品は限定申告の対象ではない。

また、噂の商流と通達の商流は全く異なっており、噂の商流は通達①の要件を充たしていない。

以上のことから、消費税法基本通達11-1-6を根拠とした「A社において輸入消費税を仕入税額控除できる」という噂は誤りである。

ところで、少し詳しい方なら次のように反論するかもしれない。

「通達は税務当局内部の取り扱いを定めたものであり、法令ではない。消費税法基本通達11-1-6を援用して実質的な輸入者であるA社において輸入消費税を仕入税額控除できるのではないか?」

もっともな反論だと思うが、残念ながらこの反論は判例によって排斥されている。

判例

輸入消費税を実質的に負担した事業者において仕入税額控除できるか否かが東京地方裁判所において審理され、平成20年2月20日、消費税更正処分取消を求めた原告の請求は棄却された。

事案の概略は次の通りである。

原告は水引製品を輸入する際、諸事情から代行業者に輸入手続きを依頼した。輸入申告書の名義人および仕入書の荷受人は代行業者名義となっている。そのうえで、代行業者が納付した輸入消費税を実質的に負担したのは原告であるとの理由で原告において仕入税額控除したところ、そのような控除は認められないとして税務当局から更正処分及び賦課決定処分を受けたことから、それらの取消しを求めた事案である。

原告は、争点の一つとして、消費税法基本通達11-1-6は実質的な輸入者が別に存在するとき実質的な輸入者が輸入消費税の仕入税額控除を受けることを認めており、消費税法30条1項に関する課税庁の公権的解釈として、輸入申告名義人ではない実質的な輸入者に対し、輸入消費税の仕入税額控除を受け得ることを正面から認めたものである、と主張した。

それに対し裁判所は、

「(消費税法基本通達11-1-6は、)(限定申告のような)例外的な場合には、実質的な輸入者が引取りに係る消費税について仕入税額控除を受け、いわゆる限定申告者は実質的な輸入者からの買取りについての消費税額について仕入税額控除を受けることとして、仕入税額控除制度の趣旨を全うさせようとしたものであると解される」

「この通達が存在することによって、およそ消費税法30条1項について、一般的に実質的輸入者が仕入税額控除を受けると解釈すべきことにならないことはいうまでもないところである。」

「そして、本件の取引が、消費税法基本通達11-1-6が例外的に定める要件に該当するとは認められない。」

と判示して原告の主張を排斥している。

この判決の結果、年商6億円規模の原告は、過少申告加算税を含めて約6,200万円を追徴課税されている。これは消費税率5%時代の話なので10%の現在なら億単位となる。消費税の取り扱いを間違えると経営の屋台骨を揺るがす甚大なインパクトがあるということである。

この判例はリンク先で詳細を確認できる。興味がある方はそちらを参照してほしい。

もう一つの風説

実は、この噂とは別角度のもう一つの風説が存在する。

「令和5年10月に関税法関連法令が改正され、化粧品を他社名義で輸入しても輸入消費税は自社で仕入税額控除できるようになった」というのがそれである。この風説に関しても検証してみる。

令和5年10月、関税法関連法令が改正され、関税の納税義務者が明確化された。

すなわち、輸入取引により輸入される貨物については、原則として仕入書もしくは船荷証券等に記載されている荷受人が納税義務者となる(関税法基本通達6-1)。なお、輸入取引とは、我が国に拠点を有する者が買手として売手との間で行った売買であって、現実に貨物を輸入することとなる売買がこれに該当する(関税定率法基本通達4-1)。

一方、輸入取引以外の場合には、輸入申告の時点において、国内引取り後の輸入貨物の処分の権限を有する者が納税義務者となる(関税法基本通達67-3-3の2)。

もう一つの風説は、輸入代行業者であるB社は国外事業者と売買契約を締結していないので、本件は輸入取引以外に該当し、国内引取り後の輸入貨物の処分の権限を有するA社が納税義務者となり、A社において輸入消費税を仕入税額控除できる、というものだ。

しかし、代理人により輸入される貨物であっても、売手と買手との間で締結された売買契約を履行するために輸入される貨物は輸入取引による輸入貨物に該当する(関税定率法基本通達4-1の2)。

本件はA社と国外事業者との間に締結された売買契約を履行するために輸入される貨物であるから、本件取引は輸入取引に該当する。つまり、仕入書に記載された荷受人であるB社が納税義務者となる。よって、もう一つの風説も誤りである。

さらに、輸入取引の場合でも輸入取引に関与しない者が荷受人として記載されている場合はその者は納税義務者とはならないが、医薬品等の有効性及び安全性の確保等に関する法律の趣旨を鑑みれば、医薬品医療機器等法における製造販売業者であるB社が輸入取引に関与しないことは有り得ず、むしろ、B社が主体的に輸入することを義務付けており、B社を納税義務者とするのが妥当と思われる。実際、税関の取り扱いとしてA社が納税義務者となることはできず、B社が納税義務者となる。

なお、輸入申告書の名義人であり仕入書もしくは船荷証券等に記載されている荷受人において輸入消費税を仕入税額控除する、という消費税法の取り扱いに関して、関税法関連法令改正後も何ら変更はない。

消費税の取り扱いを間違えると経営に甚大なインパクトがあることを改めて肝に銘じたほうがいい。

検証結果を踏まえた実務的対応

今回の検証で、化粧品を他社名義で輸入した場合、輸入消費税を自社で仕入税額控除できないことが明らかとなった。この検証結果を踏まえた実務的対応は3パターン考えられる。

  1. B社で輸入仕入してもらい、B社からA社が国内仕入する。こうするとB社からA社に消費税のインボイスが交付されるので、A社において消費税を仕入税額控除できる。
  2. B社において輸入消費税を仕入税額控除できるのだから、A社はB社に対して輸入消費税相当額を支払わない。その場合でもB社に損はない。
  3. B社において輸入消費税を仕入税額控除できるのだから、A社はB社に対して輸入消費税相当額をいったんは仮払いするものの、B社が消費税の申告をしたのち仮払金を返還してもらう。

もう一つの実務的対応

税関のカスタムアンサー(税関手続FAQ)を見ていたところ、気になる文言が目に入った。抜粋して掲載する。

1805 医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の税関における確認内容

なお、製造販売業者が、医薬品医療機器等法における製造販売業者としての輸入の責務を果たす範囲においては、当該製造販売業者を税関への輸入申告における代理人、当該製造販売業者以外の者(販売業者等)を輸入者として、税関への輸入申告を行うことができます。ただし、上記の「輸入申告における代理人」は、税関への輸入申告における代理人欄にその名称等を記載する者であり、この「代理人」が輸入者からの依頼を受けて輸入申告の代理(通関業務)を業として行おうとする場合は、通関業法の規定に基づく通関業の許可を受けた「通関業者」である必要があります。また、上記の「輸入申告における代理人」が医薬品医療機器等法における製造販売業者である場合においても、製造販売業者は輸入から国内への流通に際して、医薬品等製造販売承認書等の内容を遵守する必要があります。」

つまり、医薬品医療機器等法における製造販売業者であるB社が、通関業法の規定に基づく通関業の許可を受けた「通関業者」である場合、A社を輸入者、B社を輸入申告における代理人として輸入申告できるように読める。その場合、A社が輸入申告書の名義人となり仕入書の荷受人となるので、A社において輸入消費税を仕入税額控除することになる。

ただし、令和5年12⽉8⽇付、財務省関税局・税関「輸⼊申告者の意義の明確化に関する事例集」の7ページには、上記の場合であっても、貨物や流通形態によっては、輸⼊申告者⾃⾝が医薬品医療機器等法の規定に基づく許可を受けていることを要する場合がある旨記載されているので、実際にやってみなければ分からない。

この記事について

この記事には個人的な判断や見解が含まれておりその正確性や妥当性を保証するものではない。また、この記事の閲覧者等がこの記事の情報を利用して行う一切の行為について当方は一切の責任を負わない。この記事の閲覧者等の個別具体的な取引等の課税関係は、税理士等の専門家に相談するか、もしくは、所轄税務署に個別照会して確認することを推奨する。