物品販売業が法人化して絶対やらないほうがいいたった1つのこと

承前
前回の記事では、物品販売業が法人化して10年間に達成すべき経営目標として「自己資本比率30%」を掲げ、それを達成する具体的な取り組み方に言及した。
今回の記事では、物品販売業が法人化して絶対やらないほうがいいたった一つのことに言及したい。
転貸はするな
物品販売業の事業経営には運転資金が必要不可欠であるため、運転資金が借りられなくなるリスクは回避しなければならない。
そのリスクの最たる原因が債務超過である。債務超過に陥る原因は赤字だが、長く法人を経営していれば赤字となる事業年度は必ずある。しかしそのとき、自己資本が充実していれば赤字を吸収して債務超過を回避できる。
そういう観点から、前回の記事では、物品販売業にとって「法人化して10年以内に自己資本比率30%」が最優先の経営目標となる旨をアドバイスした。
しかし、実は、運転資金が借りられなくなる原因がもう一つある。
それが「転貸」である。
金融機関からの借入金は、その資金使途が運転資金もしくは設備資金に限定されている。仮に、あなたの法人が銀行から運転資金を借りている状態で、法人から経営者個人に貸付金がある場合、銀行目線では転貸とみなす。
転貸(てんたい)とは銀行借入金の私的流用のことである。
銀行的には法人の運転資金として貸出をしたはずなのに、その資金を経営者個人が私的流用するのは資金使途違反である。
仮に、銀行借入金がないときに経営者貸付金が発生し、後から運転資金を借り入れた場合も同様である。「経営者貸付金がなければその分借り入れる必要がなかったはず」と銀行は考えるからである。
転貸は財務的な傷であるため、信用格付けが下がり、借り入れ条件が基本的に悪くなる。そして、最悪の場合は新規借入ができなくなるのである。
もちろん、銀行側に貸したい事情がある場合は転貸が問題視されることはない。例えば、あなたの法人の自己資本が充実しており、業績好調であれば問題が表面化することはない。
しかし、あなたの法人の業績が著しく悪化した場合や債務超過となった場合は問題が表面化する。通常、メインバンクは過去の貸金が貸倒れるリスクより追加支援するリスクを選択する場合が多いが、転貸がある場合はそれを理由に新規融資を謝絶することがある。新規融資をしても経営者個人が私的流用したら意味がないからだ。
「まずは経営者に対する貸付金を返してもらってください」とやんわり断られることもあるし、「転貸は資金使途違反であり契約違反なので新規融資が審査に通りません」と厳しく断られることもある。
転貸は経営者の財務規律が低いことを表しているため、銀行的に心証が悪い。つまり、相当の悪手なのである。
しかし、転貸は経営者が決断しさえすれば回避できることである。しっかり認識して回避してほしい。
結びに
顧問先に転貸のリスクを説明すると、「えっ、そうなの!?」という反応が多い。その理由は、知るきっかけがないからである。銀行が資金使途に関して説明することはないし、税理士は税務的な論点となる認定利息の計上に関して指摘するだけで、専門外である転貸のリスクまでアドバイスしない(知らない?)ことが多いからだ。
経営者は個人と法人を一体のものと考えていることが多いため、リスクを知らずに転貸しがちである。そして一度転貸するとそれを解消するのは至難の業となる。あなたが将来的なリスクを回避したいなら、財務規律として最初から転貸しない経営判断をお勧めする。
さて、全4回にわたり、物品販売業を営む経営者に向けてお金にまつわるアドバイスをしてきた。これだけ知ってれば大失敗はしないはず、を目指して私の知見を余すところなく伝えたつもりである。これらの記事が新しい学びや気づきとなって経営の不安が少しでも和らいだなら幸いである。