物品販売業が法人化して10年間に達成すべき経営目標とは?

最も重視すべき財務指標
法人化したばかりの物品販売業が最も重視すべき財務指標は、自己資本比率である。
自己資本比率=自己資本÷総資本
総資本=自己資本+他人資本
総資本とは事業の元手となるお金のことである。
自己資本とは資本金+利益剰余金である。平たくいうと、自分が出資したお金と自分の法人が稼いだお金の累計だ。自己資本は事業の元手となるので総資本の一部を構成する。
他人資本とは負債のことである。平たく言うと、銀行からの借入金や仕入先に対する買掛金のことだ。他人資本も事業の元手となるので総資本の一部を構成する。
つまり、自己資本比率とは、事業の元手のうち自分のお金の割合のことである。仮に失ったとしても人に迷惑を掛けないお金の割合と言い換えることもできる。
物品販売業が法人化して10年間に達成すべき経営目標
物品販売業にとって「法人化して10年以内に自己資本比率30%」が最優先の経営目標となるだろう。
その理由は、安定的に運転資金を調達するためである。
前回の記事で物品販売業の事業経営には運転資金が必要不可欠である旨を述べた。だから、運転資金が借りられなくなるリスクは回避しなければならない。
それでは、どういう場合にリスクが高まるかというと、債務超過に陥った場合である。債務超過とは「資産<負債」の状態である。資産を全て換金しても負債を返済できない状態のことだ。
借り手企業が債務超過に陥った場合、貸倒れリスクが高まるため銀行は新規融資に慎重な姿勢となる。そして、多くの場合は新規融資を謝絶することになる。
債務超過に陥る原因は赤字である。長く法人を経営していれば赤字となる事業年度は必ずあると考えたほうがいい。大きな赤字となることもあるし、連続赤字となることも想定しておいたほうがいい。
その時に自己資本が充実していれば赤字を吸収して債務超過を回避することができる。自己資本は債務超過を回避するためのバッファの役割を果たすのである。
「それでは、自己資本だけで経営すれば安全なのでは?」という発想があってしかるべきである。もちろん安全には違いないが、自己資本だけで法人経営するのは効率が悪い。統計的に、総資本と営業利益は比例関係にあるからだ。総資本を増やせば得られるはずの利益をみすみす逃すのは経営効率が悪すぎる。
そこで、中小企業の場合、安全性と効率性のバランスが取れた自己資本比率は30%~50%というのが経営の常識となっている。あなたの法人もそういう目で判断されることは知っておいて損はないだろう。
自己資本比率30%を達成する方法
自己資本比率30%を達成する現実的な方法は、税引後利益を蓄積していくことである。つまり、法人税等を支払った後の利益を長期間にわたって積み上げるのが無理のない方法である。
だから、法人化して10年間は節税などしないほうがいい。また、決算対策と称して決算期間際に消耗品等を購入して利益の圧縮を図るのはやめた方がいい。
法人化して10年間はできるだけ多くの利益を計上し、法人税等を納税するのがあなたのためである。あなたの法人の安全性が高まり、対外的な評価も高まり、より長期的な事業運営が可能となり、その期間あなたの生活が保障される礎を築くことになるからだ。
そもそも、中小企業において、所得800万円以下の法人税等の実効税率は約23%である。追加的な役員報酬に掛かる所得税(最低5%)、住民税(10%)、健康保険料(最低9.95%)の合計(24.95%)より一般的に税負担は少ない。もし、あなたの法人の所得(≒利益)が800万円以下なら、法人で納税するほうが一般的に税制有利なのである。
もちろん、生活に必要な役員報酬は取った上での話である。
結びに
企業経営には短期的な戦術と中期的な戦略がある。
前2回の記事では、キャッシュフローはP/L要因だけでなくB/S要因の影響も受けるため、物品販売業では運転資金が必要不可欠であり、3か月分の運転資金を確保して運用するのが現実的な資金繰りの方法である旨アドバイスした。これは短期的な戦術の話である。
そして、この記事では、物品販売業が法人化して10年間に達成すべき経営目標として「自己資本比率30%」を掲げ、その理由と具体的な方法をアドバイスした。これは中期的な戦略の話である。
企業経営者には、少し遠くを見据えながら目の前の課題に対処するスキルが求められる。この3つの記事が物品販売業を営む経営者の参考になったなら幸いである。
と、ここで、実はもう一つ言い残していることがある。運転資金を調達するにあたって、法人経営者が絶対やらないほうが良いことがある。それは別の記事でアドバイスしたい。
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