債務者区分の判断基準


中小企業の資金調達力は債務者区分によって決まりますが、債務者区分は次に掲げる項目を総合的に勘案して判断されます。

1、債務者の実態的な財務内容
2、返済能力
3、債務者に対する貸出条件及びその履行状況
4、事業の継続性と収益性の見通し
5、キャッシュフローによる債務償還能力
6、経営改善計画等の妥当性
7、金融機関等の支援状況等

以下、その内容を具体的に見ていきます。

1、債務者の実態的な財務内容

経常利益を計上し、実質的に債務超過でなければ財務内容に問題がなく、正常先と判断されます。

代表者等からの借入金は自己資本相当額に加味することができます。表面上は債務超過であっても代表者からの借入金を自己資本相当額に加味すれば債務超過が解消される場合は「実態」としての財務内容に問題はありません。代表者等には、代表者の家族、親戚、代表者やその家族が経営する関係企業などが含まれます(以下同様)。ただし、代表者等の支援の意思が必要です。

有価証券の含み益は自己資本相当額に加味することができます。

減価償却をしていない場合、減価償却費の要計上額を当期純利益から減額して「実態」としての財務内容を判断します。その結果、表面上は黒字であっても実態は赤字と判断されることがあります。減価償却せずに黒字を確保する方法は銀行対策としてよく使われる方法ですが、意味が無いだけでなく、不要な税金を支払うため、有害無益だといえます。

減価償却不足額がある場合は、自己資本から減額して「実態」としての財務内容を判断します。その結果、表面上は資産超過であっても実態は債務超過と判断されることがあります。減価償却前で赤字の場合、減価償却をしないほうが将来的な税負担を減らせるという点で税制上は有利です。しかし、積みあがった減価償却不足額が自己資本から減額されて債務超過と判断されれば資金調達に支障がでます。資金調達を優先させるならば、毎期継続的な減価償却をすべきです。毎期継続的な減価償却をしたうえで赤字であっても、その赤字を原点として黒字回復させる財務計画を立案し、実行することが健全な経営姿勢だといえます。

不良在庫や不渡手形などの不良資産・不良債権がある場合は、自己資本から減額して「実態」としての財務内容を判断します。その結果、表面上は資産超過であっても実態は債務超過と判断されることがあります。適切な在庫管理や債権管理が重要な経営課題とされる一つの根拠といえます。

代表者等への貸付金や未収金などがある場合で回収不能額がある場合には、自己資本から減額して「実態」としての財務内容を判断します。その結果、表面上は資産超過であっても実態は債務超過と判断されることがあります。表に出せない支出を安易に代表者等への貸付金として処理する場合がありますが、代表者に返済する意識が乏しいため、大きな金額に積みあがることは珍しくありません。そして資金調達に支障が生じることになります。安易な処理は厳に慎むべきです。

2、返済能力

キャッシュフローが元本返済額を上回っている場合は返済能力に問題はありません。キャッシュフローとは税引後利益に減価償却費を加えた現金余力をいいます。

赤字や債務超過の原因が固定資産の売却損などの一過性のものであり、短期間に黒字化することが確実と見込まれる場合は、返済能力に問題がないため、正常先と判断されます。

赤字のために返済資金を代表者等から調達している場合で、代表者等への報酬や家賃の支払いがある場合は、代表者等への報酬や家賃を返済能力に加味することができます。

代表者等(個人及び関係企業)の収入状況は、返済能力に加味することができます。ただし、代表者等の支援の意思が必要です。

代表者等の正味財産(預金・有価証券・不動産等の資産から借入金・保証債務等の債務を差し引いたもの)は、返済能力に加味することができます。

3、債務者に対する貸出条件及びその履行状況

貸出条件及びその履行状況については、債務者区分を判断する上で重要な要素です。

貸出条件の変更が行われている場合で、その債権が「貸出条件緩和債権」に該当する場合は要注意先(要管理債権)以下に債務者区分されるため資金調達が困難となります。

債務者が3か月以上延滞している場合は要注意先(要管理債権)以下に債務者区分されるため資金調達が困難となります。

4、事業の継続性と収益性の見通し

「事業の継続性と収益性の見通し」とは、「売上高の見通し」を意味します。中小企業に関しては、次に掲げる項目などあらゆる判断材料を売上高の見通しに反映させることができます。

①企業の技術力、販売力等

・保有している知的財産権(特許権、実用新案権、商標権、著作権等)
・新商品、新サービスの開発状況を踏まえた事業計画書
・大手企業との技術協力
・商品、サービスの評判を示すマスコミ記事
・商品、サービスの今後の市場規模や業界内シェアの拡大動向
・同業他社と比較した場合の販売、仕入の優位性

ただし、これらの材料により今後どの程度、新規受注が得られるのか、あるいは、これらの材料が今後どの程度、売上・利益に貢献できるのかを具体的に示す必要があります。

② 経営者の資質

・過去の約定返済履歴などの取引実績
・経営改善に対する取組み姿勢
・財務諸表の質の向上への取組み状況
・ISO等の資格取得状況
・人材育成への取組み姿勢
・後継者の存在

③ その他

・法律に基づき技術力や販売力を勘案して承認された計画(「経営革新計画」「異分野連携新事業分野開拓計画」など)
・企業の技術力、販売力、経営者の資質に関する中小企業診断士等の評価

④ 創業赤字の場合

・創業赤字で当初事業計画と大幅なかい離がない場合は、正常先と判断されます。
・具体的には、黒字化するまでの計画期間が概ね5年以内であり、かつ、売上高及び当期利益が事業計画比7割以上確保されている場合が該当します。

5、キャッシュフローによる債務償還能力

キャッシュフローとは税引後利益に減価償却費を加えた現金余力をいいます。有利子負債総額が年間キャッシュフローによる債務償還能力の10倍以内に収まっていることが財務健全性の目安となっています。

6、経営改善計画等の妥当性

破綻懸念先に区分される債務者が、次に掲げる合理的で実現可能性の高い経営改善計画を策定している場合は、要注意先と判断されます。

計画期間が原則として5年以内であり、かつ、計画の実現可能性が高いこと。ただし、計画期間が5年超10年以内である場合でも、その進捗状況が概ね1年以上順調(売上高と当期利益が計画比8割以上確保されている)であり、今後も概ね計画通りに推移すると認められる場合も含みます。

計画期間終了後の債務者区分が正常先となる計画であること。ただし、計画終了後の債務者が資金調達しなくても事業継続できる場合は、要注意先となる計画でも構いません。

全ての取引金融機関が経営改善計画に基づく支援に関して正式な内部手続きを経て合意しており、その内容が文書化されていること。

金融機関の支援の内容が、債権放棄などの資金提供を伴うものでないこと。ただし、資金提供をすでに行っている場合でも、今後は行わないと見込まれる場合を含みます。また、今後資金提供を行う計画を立てている場合でも、損失見込額を全額引当計上済みであり、追加の損失が見込まれない場合も含みます。

中小企業に関しては、精緻な経営改善計画を策定できない場合であっても、金融機関が作成・分析した資料をもとに債務者格付の判断を行います。また、経営改善計画の進捗状況が計画を下回る(売上高と当期利益が計画の8割に満たない)場合であっても、下回った要因を分析したうえで今後のキャッシュフローの見通しを検討し、債務者格付を判断することになります。

7、金融機関等の支援状況等

金融機関が、継続的な企業訪問を通じて企業の技術力・販売力や経営者の資質といった定性的な情報を含む経営実態の十分な把握と債権管理に努めており、きめ細やかな経営相談、経営指導を通じて積極的に企業・事業再生に取り組んでいる場合、債務者区分の判断にあたってその評価分析は尊重されます。

金融機関による「債務者への働きかけ」の度合いは、債務者区分の判断において重視されます。中小企業が安定した資金調達を望むのならば、金融機関と密度の高いコミュニケーションを図らなければなりません。どうすれば密度の高いコミュニケーションを図れるかは、資金調達の戦略を考える上で最も重要なことの一つといえます。

資金調達力は債務者区分によって決まります。その債務者区分は銀行が判断します。財務内容だけで「正常先」に区分されるにはしっかりとした財務戦略が必要です。また、財務内容に問題が生じた場合でも資金調達に支障がでないようにするためには、日頃から資金調達の戦略をしっかりたてて銀行取引をコントロールすることが重要だといえます。