財務戦略の考え方」カテゴリーアーカイブ

財務戦略の考え方「ここまでのまとめ」

ここまで、最初に問題提起した財務戦略の目的に合理性があるかどうか検討してきました。議論をまとめると次にようになります。

規模の利益は統計的な事実であり、規模の利益を追求することは企業にとって当然の選択です。一方、財務的な破綻を回避するために規模に見合った資金力を確保することは企業にとって当然の義務です。規模とは総資本のことであり資金力とは自己金融能力のことを指します。総資本と自己金融能力はトレードオフの関係にあるため、規模と資金力は自然の流れではバランスしません。

そうすると、規模と資金力をバランスさせる意図的な取組みが必要となります。それが財務戦略です。では、財務戦略を策定するために必要な要素とは何でしょうか?ここからは、財務戦略を策定する上で必要な要素に関して議論していきます。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み⑧」

銀行は、中小企業の経営者と経営者が関わる全ての企業(グループ企業)は一体のものと見なしています。グループ企業とは経営者が実質的に支配している企業のことです。

この銀行の目線を理解しておくことは重要です。なぜなら、財務内容に問題を抱える企業がグループ内にある場合、他のグループ企業が融資を受けられないことがあるからです。銀行は問題を抱える企業に転貸されることを警戒しています。逆に、ある企業が財務内容に問題を抱えていてもグループ企業全体の信用格付が高ければ銀行融資を受けられることがあります。他のグループ企業からの支援が期待できるからです。

企業単体の信用格付だけでなく、グループ企業全体の信用格付にも留意することが銀行融資を受ける上で必要だといえます。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み⑦」

下の表は信用格付・債務者区分に応じた資金調達力の目安を示しています。

表を見ると、融資判断が2段階で行われていることが分かります。信用格付8・要管理先以下は融資不適格で銀行融資を受けることができません。仮に、借り手企業が不動産担保を提供する意思があったとしても、要管理先以下に対する新規融資には50%以上の貸倒引当金を積まなければならず、銀行にとって経済合理性がないからです。

信用格付7・要注意先は融資適格ではありますが、仮に、借り手企業が不動産担保を提供する意思があったとしても、融資が受けられないことがあります。要注意先に対する新規融資には通常よりも高い貸倒引当金(7~15%程度)を積まなければならず、他の融資と押しなべた金利が銀行にとって経済合理性があれば融資を受けることができます。しかし、金利が高くなるのはやむを得ません。

信用格付6・正常先は融資適格ですが、このレベルではキャッシュフローを生み出す力が十分ではないため、無担保無保証で融資を受けられるかは微妙なところです。

この表を見て分かるとおり、信用格付が高いほど資金調達力は大きいといえます。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み⑥」

ここまでの議論をまとめる前に、銀行融資の仕組みについてもう少し説明したいと思います。

下の表は、日銀レポートを基に信用格付・債務者区分の定義を示したのものです。定義では「現在の財務内容の良否」と「将来的な事業環境の変化に対する耐性」の二つに言及しながら債務履行能力の程度を区分しています。このことは、現在の財務内容だけでなく将来的なリスクに対する備えがあって初めて債務履行能力が高まることを示唆しています。すなわち、資金余力の重要性を示唆しています。

財務戦略の考え方「資金力の本質」

基礎講座4で、資金力とは自己金融能力と資金調達力の2つの要素からなることを述べました。基礎講座5~12では、資金調達力とは実質的に銀行融資を受ける能力であり、資金調達力は自己金融能力に応じて伸縮することを明らかにしました。

そうすると、資金力とは自己金融能力そのものということになります。また、自己金融能力は自己資本比率と総資本当期純利益率で測定されることから、総資本と自己金融能力がトレードオフの関係にあるという重要な結論が導かれることになります。

基礎講座1で、財務戦略の目的は規模と資金力をバランスさせることだと述べました。そして、その前提となる「規模と資金力が相反するという仮説」を立証することが目的の正しさを示すことになるとしました。

規模とは総資本のことであり資金力とは自己金融能力のことです。総資本と自己金融能力はトレードオフの関係にあることから、この仮説は立証され、財務戦略の目的の正しさも示されたことになります。

財務戦略の考え方「資金調達力の本質」

借り手企業の基本的な取引方針や貸出条件は自己金融能力の高さによって判断されることが明らかになりました。そうすると、資金調達力は自己金融能力に比例して伸縮することになります。

企業の業績が良く自己金融能力が高い時は、銀行の取引方針は「積極的」となり、貸出条件は企業に「有利」となります。すなわち、借り手企業の資金調達力が高まります。銀行には融資を増やすインセンティブが働きますが、借り手企業には銀行融資を返済するインセンティブが働きます。資金余力が発生しているからです。

企業の業績が悪化し、自己金融能力が下がると、銀行の取引方針は「消極的」となり、貸出条件は企業に「不利」となります。すなわち、借り手企業の資金調達力が弱まります。借り手企業には銀行融資の必要性が高まりますが、銀行には融資を減らすインセンティブが働くため、借り手企業に資金不足が発生することがあります。

これが「銀行は晴れた日に傘を差し出し、雨が降ったら取り上げる」ロジックです。このロジックは、資金調達力の本質を端的に表しています。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み⑤」

財務定量モデルの精度はデフォルト事象と関連の深い財務指標の選択に依存しており、それは自己金融能力を表す財務指標であることが判明しました。

このことから、財務定量モデルの本質は自己金融能力の測定にあることが分かります。そして、内部格付制度は自己金融能力を測定して信用格付するシステムだと結論付けられます。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み④」

銀行は内部格付制度の詳細を公表していないため、銀行が採用している財務指標を直接知ることはできません。しかし、デフォルト確率を推定するという観点では格付機関の信用格付も同じものなので、格付機関が公表している財務指標を分析すればその本質が分かりそうです。

ムーディーズとS&Pが採用している財務指標は奇しくも同じ6種類となっています。このうち、自己資本比率と相関性の高い有利子負債比率、総キャピタライゼーション比率、固定長期適合率、留保利益率を省いてやると、残った財務指標は自己資本比率と有利子負債/EBITDAの二つとなります。

自己資本比率は総資本が小さいほど評価が有利となります。また、有利子負債/EBITDAは当期純利益が大きいほど評価が有利となります。つまり、これらの財務指標は自己金融能力を測定する財務指標に他ならないことが分かります。

よって、デフォルト事象と関連の深い財務指標とは、自己金融能力を表す財務指標だと結論付けられます。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み③」

財務定量モデルはデフォルト確率を推定するモデルです。デフォルトとは債務不履行のことで、実質的に企業破綻を意味します。

財務定量モデルは、理論的にデフォルト確率を導くのではなく、統計的にデフォルト事象と関連の深い複数の財務指標を照らし合わせることでデフォルト確率を推定します。

デフォルト確率が低ければ信用格付は高く、デフォルト確率が高ければ信用格付は低くなります。

財務定量モデルの精度はデフォルト事象と関連の深い財務指標の選択に依存しています。つまり、デフォルト事象と関連の深い財務指標が明らかになれば、財務定量モデルの本質が分かります。

財務戦略の考え方「銀行融資の仕組み②」

借り手企業に対する基本的な取引方針・貸出条件を決める手続きを内部格付制度といいます。内部格付制度では実態財務を財務定量モデルに算入して一次格付をします。

借り手企業から提出された月次試算表や決算書等の財務情報を表面財務といいます。銀行は表面財務が借り手企業の実態を表していないと考えています。その理由は、借り手企業のほとんどが納税を目的とした財務諸表を作成しているからです。そのため、銀行は独自に会計処理を修正して実態に近い決算書を別途作成しています。それが実態財務です。

実態財務の基本的な考え方は二つあります。

  • 企業の自己資本は、将来的にキャッシュフローとなる資産に担保されていなければならないという考え方が一つです。不良債権や不良在庫は自己資本から控除されて評価されます。

  • 会計処理は毎期継続的・規則的に行われるべきという考え方が一つです。減価償却未済額は自己資本や当期純利益から控除されて評価されます。

なお、実態財務の把握は中小企業の財務戦略にとっても重要です。財務戦略を策定する場合、実態ベースで検討しなければ結論を誤る可能性が高いからです。