ネット通販ビジネスを成功させる最初の事業計画とは?

今後も市場拡大が予想され、将来有望なネット通販ビジネス。成功を夢見てチャレンジする人は多いが、誰にでも簡単に稼げるビジネスではない。

私は多くのネット通販ビジネスに関与してきたが、もしあなたがネット通販ビジネスにチャレンジするなら、事業を拡大させる前にあなたのビジネスモデルは儲かるのか検証することを強く推奨する。

というのも、やみくもに事業規模を拡大させた結果、多額の借金を抱えてやめるにやめられず、陰陰滅滅としたその後の生活を強いられる人が中にはいるからだ。

そういう人のパターンはだいたい決まっている。

Amazonなどのプラットフォームへの出品の仕方ほかビジネスの基本を覚えた段階で数百万円単位の借り入れをし、事業拡大を図るパターンが典型的だ。

もちろん、個々の商材で利益が出るのは確認済みだろう。しかし、だからと言ってビジネス全体の利益がでると思うのは早合点である。粗利益が黒字でも営業利益が赤字のことは普通にあるからだ。特にこのビジネスはプラットフォームに対する販売手数料が高いのでその傾向が強い。営業利益が赤字の状態で事業を拡大させると損失が膨らむだけである。

だから、あなたのビジネスモデルが儲かることを検証してから事業を拡大させることが重要だ。そして、ビジネスモデルが儲からないなら潔く撤退したほうが賢明である。それがこのビジネスに取り組む際の基調となる経営戦略だと私は考えている。

このコンテンツでは、その手段として事業計画を使った経営手法を理論的に説明し、収益性の検証の仕方を具体的な数字を使って詳しく述べている。是非参考にして成功の足掛かりを築いてほしい。

事業計画とは?

事業計画とは、あなたが望むあるべき姿を実現させるための合理的な計画のことである。

まず、目標を設定しそれを達成する必要十分な計画を立てる。次に、計画を実行して予実管理をし、PDCAサイクルを回すことで計画の実現可能性を高める、という考え方がこの経営手法の核となっている。PDCAはPlan Do Check Actionのイニシャルで経営改善の手法である。

そういう意味で事業計画は単なる仮説にすぎないのだが、この経営手法はオーソドックスで、場当たり的な事業活動に比べて収益性が高まるのは確かである。

あなたが望むあるべき姿を定義する

だからまず、「あなたが望むあるべき姿」を定義しなければならない。具体的には、単年度の業績を表す目標利益を最初に定める必要がある。

ただし、現状ではあなたのビジネスモデルの収益性を検証することが目先の目的である。だから、最初から大きな夢を抱かずに、スケールダウンした夢を設定する必要がある。

最初は任意に「月10万円の営業利益」などのように決めてやれば十分だ。この目標を達成する事業計画を立てていく過程で妥当な目標が明確になっていくはずだからである。

許容できるリスクを定義する

ネット通販ビジネスは小売業なので当然に元手が必要である。元手は自己資金のうち失っても生活に支障がない金額とするのが基本だ。それなら、仮にあなたのビジネスモデルが儲からない場合には潔く撤退することができる。

気を付けたいのは、最初に決めた金額は厳守することである。ずるずると追加資金を投入するのはサンクコストの錯誤として有名な経営上の失敗である。人間が心理学的に陥りやすい錯誤なので、絶対に避けるべき愚かな行動だと肝に銘じておいたほうがいい。

具体的な水準としては「月10万円の利益」なら多くても予算は100万円だろう。

では、自己資金がない場合はどうする?ということになるが、その場合はビジネスに挑戦する資格がまだないというのが正直なところだ。苦労して貯めた自分のお金は大事に使いたいと思うのが人情である。その心情はビジネスでプラスに働く。だからまず、自己資金を貯めることに専念してほしい。その情熱がなければいずれにしてもビジネスで成功するのは難しいと思う。

ところで、このビジネスの基本を習得する段階では、クレジットカードで商材を仕入れることが一般的のようだ。決済手段としてクレジットカードを使うこと自体は何の問題もないのだが、資金調達の手段としてクレジットカードを利用するのは大問題である。

クレジットカードは利用から口座振替まで最長2か月間の猶予がある。その間に仕入、納品、販売、売掛金の回収が完結すれば自己資金なしにビジネスが回る。理論的には正しいが、現実的にビジネスとして成立させることは不可能である。資金を回すために原価割れの売価でたたき売りする羽目に陥るのは目に見えている。このビジネスはそんなに甘くない。

だから、資金調達の手段としてクレジットカードをたくさん作るのはやめたほうがいい。すぐに行き詰まって追加資金が必要になるのは必至だ。自己資金を超える利用は借入金と同じである。しかも、最長2か月間という超短期資金であり、それでビジネスを回そうとするのは異常と認識したほうがいい。

なお、先ほど述べた通り決済手段としてクレジットカードを使うこと自体は何の問題もないので、決済時期の異なる事業用のクレジットカードを2、3枚作り、利用金額の合計が予算を超えないようにコントロールしながら運用するのが基本だ。

事業計画に必要な財務項目、財務指標

事業計画は財務項目と財務指標で表現される。だから、その定義を覚える必要がある。ここが理解できていないと事業計画を立てることも利用することもできないので、繰り返し目を通して頭に叩き込んでほしい。

◆ 売上高
売上高とは、商品の販売収益を集計した金額のことをいう。

◆ 売上原価
売上原価とは、売り上げた商品にかかる仕入原価を集計した金額のことをいう。財務的には個々の仕入れ原価を集計するのではなく、次の計算式で定義される。

売上原価(年間)=期首商品棚卸高+当月仕入高-期末商品棚卸高
売上原価(月間)=月初商品棚卸高+当月仕入高-月末商品棚卸高

◆ 棚卸高
棚卸高とは、月末or期末の商品在庫金額を集計した金額のことをいう。
そして、棚卸表とは、商品ごとに単価×数量で表した金額を集計した表のことをいう。

棚卸高は粗利益や営業利益の金額、売上原価率や粗利率の算定に直接影響する。だから、毎月末に棚卸表を作成するのは非常に重要な業務だ。あなたのビジネスが成功するかどうかは棚卸表をきちんと作成するかどうかにかかっているといっても過言ではない。煩雑な作業もルーティンワークになってしまえば負荷は下がるものである。このビジネスで成功したいなら正面から取り組んでほしい。

◆ 粗利
売上総利益は粗利(あらり)と言われることが多いので、この名称を使うこととする。粗利は2つの意味で使われる。まず、商材の粗利は次のように定義される。

粗利(商材)=売上単価-仕入単価
粗利率(商材)=(売上単価-仕入単価)÷売上単価×100

そして、ビジネス全体の粗利は次のように定義される。

粗利=売上高-売上原価
粗利率=(売上高-売上原価)÷売上高×100

粗利率はあなたのビジネスにとって基礎的な収益力を意味している。粗利率が高いビジネスは成功しやすく、逆も真である。

◆ 販管費
販売費一般管理費は短縮して販管費(はんかんひ)といわれることが多いので、この名称を使うこととする。販管費には売上高と無関係に発生する固定費が含まれるため、売上高に占める比率を事前に設定することは難しい。

しかし、このビジネスはプラットフォームに支払う手数料が販管費の大半を占めるので、売上高に占める比率を事前に推定してやることが可能である。例えばAmazonの販売手数料は売価の15%前後である。その他の経費を勘案して販管費率を25%と設定してやれば大きく外れていないだろう。なお、計算式は下記のように定義される。

販管費率=販管費÷売上高×100

◆ 営業利益
最初に「月10万円の営業利益」を目標と設定したが、事業計画に必要な営業利益、営業利益率は次の計算式で定義される。

営業利益=粗利-販管費
営業利益率=(粗利-販管費)÷売上高×100

事業計画に必要な財務項目、財務指標を具体的な数値を入れて表にまとめると次のようになる。

売上高 1,000,000 100%
売上原価 月初商品棚卸高  700,000
当月仕入高  850,000
月末商品棚卸高 △ 900,000 650,000 65%
粗利益 350,000 35%
販管費 250,000 25%
営業利益 100,000 10%

仮説を立てて事業計画を策定する

ここまで、目標利益と予算の考え方を理解し、財務項目、財務指標の定義を覚えていただけたと思う。次に、それらを使って実際に仮説を立て、その合理性を検証しながら事業計画を策定する。

<仮説1>
① 予算「100万円」
② 目標「月10万円の営業利益」
③ 販管費率「25%」
④ 商材
・月間販売見込数量「200個」
・売上単価「3,000円」
・仕入単価「2,500円」

もっともらしく数字を並べてみたが、この仮説は破綻していることにお気づきだろうか?

商材の粗利率は(3,000-2,500)÷3,000=17%、営業利益率は粗利率17%-販売費一般管理費率25%=△8%となっている。つまり、売上高が60万円の場合、営業利益は△4.8万円の赤字となり、売上高が増加するほど赤字が膨らむ計画となっている。このビジネスの初心者が気づかずに陥りやすい不合理な計画だ。

仮説1で分かることは、販管費率25%を前提とした場合、粗利率が25%以下の商材は話にならない、ということである。

<仮説2>
① 予算「100万円」
② 目標「月10万円の営業利益」
③ 販売費一般管理費率「25%」
④ 商材
・月間販売見込数量「200個」
・売上単価「3,000円」
・仕入単価「2,000円」
・粗利率「33%」

まず、商品仕入に必要なお金は、仕入単価2000円×月間販売見込数量200個=40万円なので、仮に2か月分の在庫を持つとしても予算内に収まっている。

次に、売上高の見込みは、売上単価3000円×月間販売見込数量200個=60万円となっている。

一方、営業利益率=粗利率33%-販売費一般管理費率25%=8%となっているので、営業利益は売上高60万円×営業利益率8%=4.8万円が予想される。

よって、仮説2には計画の合理性があるものの、当初設定した目標利益10万円は達成できない点で不十分な計画といえる。対処法として、予算の範囲内で取り扱う商材を増やす方法もあるが、当初設定した目標利益と予算はあくまで任意のものだ。ビジネスモデルの収益性を検証するという目的なら、目標利益と予算を計画に合わせてやればよいと思う。予算は少ないほうが低リスクで望ましいからだ。

そこで仮説2の内容を少し変更して事業計画を確定させる。

<事業計画>
① 予算「60万円」(1.5か月分の在庫)
② 売上高 「月60万円」
③ 粗利率「33%」
④ 販売費一般管理費率「25%」
⑤ 営業利益 「月5万円」

事業計画を実施し、業績を測定する

事業計画が定まったら次に計画を実施に移す。実施期間は12か月間とする。

計画の実施に当たって重要なのは、毎月の業績を正確に測定することである。売上高、売上原価、販管費を毎月正確に記帳して、粗利、営業利益の収益性を検証できるようにしておくことが重要だ。

もしあなたに簿記の習いがあるならマネーフォワードを使って記帳するのが効率いい。「ネット通販をマネーフォワードで楽々記帳する実践的な方法」や「マネーフォワードでAmazon(出品者)を適切に記帳する方法」が参考になると思う。

一方、もしあなたに簿記の習いがないなら、このビジネスに理解がある税理士に記帳を依頼したほうが良いと思う。コンサルに多額の資金をつぎ込む一方で記帳費用を惜しむのは片手落ちで、このビジネスで成功するのはおぼつかない。

記帳上の注意点としては、返品された商品はさっさと処分して原価計上することだ。商材の種類によっては毎月一定数の返品が生じる。将来的に収益を生まない商品を放置するのは含み損を抱えるのと同じことだ。その結果、収益性を検証する際に誤った結論に至る危険がある。業績は保守的に測定するのが原則だ。

事業計画を予実管理する

計画と実績を比較検討することを予実管理(よじつかんり)という。予実管理は直前月分と累計分を比較検討する。

具体的には、販売数量は計画通りか、売上単価は下がっていないか、売上高は達成できたか、粗利率は下がっていないかをチェックする。また、販管費率は予定の範囲内か、営業利益は計画通りかチェックする。

やってみると分かるが、実績はほとんど計画通りにならない。

仕入納品やFBA納品が遅れて十分な販売在庫を確保できずに販売機会を逃すこともある。価格競争に巻き込まれて売上単価が大きく下がり、売上高と粗利率が連動して下がることもある。コンサル費用など一時的な負担がかさみ、販管費率が大きくオーバーして営業利益が赤字となることもある。また、そもそもアカウントが停止されて身動き取れなくなることもある。

しかし、予実管理で重要なのはその原因を探って改善することなので、PDCAサイクルを回せばよい。だから計画通りに進まないこと自体を悲観する必要はない。もし、あなたの努力で改善可能ならビジネスは継続可能と判断していい。一方、もし改善できずに心が折れてしまったなら潔く撤退したほうがいい。

私の経験でいえば、PDCAサイクルを回す過程で一定の販売数が見込める商材を安定して仕入れるノウハウを確立した関与先はビジネスに成功している。安定仕入のノウハウを確立できるかどうかはあなたの活動量と多分の運に左右されるようだ。だからビジネスモデルの検証期間が必要なのである。このノウハウを確立できれば事業を拡大させればいいし、そうでなければさっさと撤退したほうがいい。

事業計画は有言実行したほうがいい

有言実行とは、あらかじめあなたが達成すべき目標を公表し、その活動に取り組むことをいう。

人間心理には、計画の失敗を認めたくないというバイアスがかかり易く、失敗の判断を先送りするだけでなく、追加資金をつぎ込む傾向がある。前述したサンクコストの錯誤といわれるバイアスだ。

有言実行はサンクコストの錯誤に陥らないための有効な対処法だ。配偶者、両親、先輩など信頼できる第三者に計画の成否を委ねることで損失の拡大を防ぐことができる。もちろん、税理士に依頼するのも一つの手段だ。

あなたのビジネスモデルに収益性があるなら

事業計画を12か月間実施してみて、計画通りではないものの営業利益を計上したなら、あなたのビジネスモデルには収益性があると判断していい。もしそうなら規模を拡大させるチャンスである。ただし、あなたは一定の販売数が見込める商材を安定して仕入れるノウハウを確立できただろうか?それが次の判断基準となる。潤沢な資金があってもそれを使いこなせない場合、無駄遣いするのが人の常だからである。

繰り返しになるが、借入金を返済するまでは事業をやめることはできない。そういう意味でもう一度熟慮したほうがいいと思う。それでもあなたはやりますか?

もしあなたが「やる」という判断を下したなら、今度は損益分岐点分析をもとに精緻な事業計画を立てることをお勧めする。この精緻な事業計画は銀行融資を受けるのに大いに役立つ。12か月間という事業実績は決して無駄にはならないのである。

なお、損益分岐点に関しては「損益分岐点をマネーフォワードで計算する詳細な手順で紹介しているので参考にされたい。