クレジットカードの電子取引データを最も楽に保存する方法とは?

電子取引データ

電子帳簿保存法が改正されて、2022年1月1日から電子取引データをデータのまま保存することが義務化された。今まではPDFで受け取った請求書を紙に印刷して保存する方法も認められていたが、今後はPDFのまま保存しなければならない。しかも、日付・取引先・金額の3項目で検索できるようにして保存しなければならない(ただし、令和6年1月1日以降、基準期間の売上高5,000万円以下の事業者に関して検索要件は不要)。

一見、面倒に感じる今回の義務化だが、考え方を変えれば楽に対応できることに気が付く。この稿では、そのちょっとした気づきを小さなビジネスの皆さんに提供することを目的としている。

最低限必要な基礎知識

本題に入る前に、最低限必要な基礎知識を習得していただく必要がある。まずは、ここをクリックして国税庁のパンフレットに目を通していただきたい。次に、以下に補足情報を箇条書きにまとめたので一通り目を通していただきたい。

改正のポイント

◆電磁的記録の保存が義務化
・電子取引を行った場合、取引情報を電磁的記録で保存することが義務化(印刷紙保存不可)
◆電子取引とは
・取引情報の受け渡しを電磁的方式により行う取引
◆取引情報とは
・請求書や領収書等に通常記載される、日付、取引先、金額などの情報
◆電磁的方式とは
・電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式
◆電磁的記録とは
・電磁的方式による記録(PDF、CSV、JPEG、PNG、Word、Excelその他あらゆる形式)
◆いつから?
・2022年(令和4年)1月1日以降に行われる電子取引が対象
◆対象税目
・所得税法と法人税法が今回の対象
・消費税法は対象外(一般課税の課税事業者は従来通り請求書等を原則紙保存)

電子取引の事例

◆クレジットカード利用明細をデータで受取
◆請求書や領収書等をPDFで受取または交付
◆インターネット経由で請求書や領収書等のPDFをダウンロード
◆ホームページ上で閲覧可能な取引情報のスクリーンショット
◆請求書や領収書等の電子データを専用のクラウドサービス(EDIなど)を利用して受け渡し
◆請求書や領収書等の電子データをペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用して受け渡し

3つの保存要件

◆改ざん防止要件
・「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」を備え付ければOK
国税庁のHPにひな形あり
◆検索要件
・日付、取引金額、取引先の3項目を検索の条件として設定できるようにして保存しなければならない
(ただし、令和6年1月1日以降、基準期間の売上高5,000万円以下の事業者に関して検索要件は不要)
◆保存期間要件
・従来通り、原則として7年間。法人で繰越欠損金がある場合は最長10年間

保存場所について

◆クラウドサービスのサーバーに保存することはOK
・通信回線で接続されており、速やかにデータの出力ができればOK
・海外のサーバーでもOK
◆クラウドサービスを利用した保存の事例
・クレジットカードの利用明細データを活用したクラウドサービスを利用して保存
・交通系ICカードによる支払データを活用したクラウドサービスを利用して保存

個別事例へ当てはめ

基礎知識を踏まえると、個々の電子取引データに日付・取引先・金額の検索要件を充たす名称を付けて保存するのは結構な手間がかかる一方、3つの保存要件を充たすクラウドサービスで保存すれば何もする必要がないことに気が付く。

この章では、その目線で個別事例へ当てはめをしてみたい。

クレジットカードの利用明細データ・交通系ICカード利用明細データ

私は、マネーフォワードというクラウドサービスを主な会計ソフトとして利用している。そのマネーフォワードはクレジットカードや交通系ICカードの取引データを取り込むことができる。取り込まれたデータは下の画面のように閲覧、利用できる。

この画面では、日付・取引先・金額を検索の条件として設定できる。また、必要期間継続利用すれば保存期間要件を充たすことができる。そして、通信回線で接続されており速やかにデータの出力ができる。よって、マネーフォワードを利用した保存は要件を充たしていることが分かる。アカウントの作成と口座連携は無料アカウントでできるので、上のリンクからアカウントを新規登録して試していただきたい。

次に、クレジットカード会社等のwebサービスを利用して保存できるか検討する。

ほとんどのwebサービスではログイン画面で日付・取引先・金額を検索の条件として設定できない。ただし、取引情報のcsvをダウンロードすることが可能であり、csvは検索要件を充たしている。これで保存期間要件を充たせばよいのだが、csvのダウンロード可能期間はせいぜい1年間程度なので保存期間要件を充たしていない。よって、webサービスを利用した保存は、現状、要件を充たさない。

しかし、今後、クラウドサービスを利用した取引情報の保存は主流となることが見込まれるため、webサービスの仕様変更に留意したい。

仮に、クラウドサービスを利用せずに保存する場合は、クレジットカード会社のwebサービスから取引情報のcsvをダウンロードしてローカルPCやストレージに保存すれば保存要件を充たすことができる。一方、利用明細のPDFは個々の取引を検索できないので保存要件を充たさないことに注意が必要だ。

Amazon.co.jp(購買アカウント)の取引データ

近年、EC取引は増加しており、消耗品等をAmazonで調達しているビジネスは多いと思う。先述のマネーフォワードはAmazon.co.jp の取引データを取り込むことができる。取り込まれたデータは下の画面のように閲覧、利用できる。

この画面では、日付・取引先・金額を検索の条件として設定できる。また、必要期間継続利用すれば保存期間要件を充たすことができる。そして、通信回線で接続されており速やかにデータの出力ができる。よって、マネーフォワードを利用した保存は要件を充たしていることが分かる。アカウントの作成と口座連携は無料アカウントでできるので、上のリンクからアカウントを新規登録して試していただきたい。

次に、Amazon.co.jpのwebサービスを利用して保存できるか検討する。

Amazon.co.jpのwebサービスではログイン画面で日付・取引先・金額を検索の条件として設定できない。また、取引情報のcsvをダウンロードすることもできない。よって、Amazon.co.jpのwebサービスを利用した保存は要件を充たさない。

仮に、クラウドサービスを利用せずにAmazon.co.jpの取引データを保存する場合は、Amazon.co.jpのwebサービスから個々の取引のPDFをダウンロードして、日付・取引先・金額の検索要件を充たす名称を付けて保存することになる。結構な手間なので何らかのクラウドサービスを利用したいところだ。

Amazon Businessの取引データ

Amazon.co.jpは個人利用を前提としているが、ビジネス利用を前提としたAmazon Businessを利用される方も最近増えている。

先述のマネーフォワードはAmazon Business の取引データを取り込むことができるが、取り込まれた画面では、日付・金額を検索の条件として設定できるものの、取引先を検索の条件として設定できない。セラー情報が取り込まれないためだ。よって、マネーフォワードを利用した保存は要件を充たさない。

次に、Amazon Businessのwebサービスを利用して保存できるか検討する。

Amazon Businessのwebサービスはログイン画面で日付・取引先・金額を検索の条件として設定できない。ただし、取引情報のcsvをダウンロードすることが可能であり、csvは検索要件を充たしている。これで保存期間要件を充たせばよいのだが、現状、ダウンロード可能期間が不明だ。Amazon.co.jpがすべての取引情報が閲覧可能なのでAmazon Businessも同様だとは思うが、現状では不明と判断せざるをえない。

以上のことから、現状ではAmazon Businessの取引データをクラウドサービスで保存することは推奨できない。

つまり、Amazon Businessの取引データはwebサービスから取引情報のcsvをダウンロードして保存する、または、Amazon Business のwebサービスから個々の取引のPDFをダウンロードして、日付・取引先・金額の検索要件を充たす名称を付けて保存することになる。当然、手間のかからないcsvの保存を推奨する。

請求書や領収書等のPDF、スクリーンショット等

取引先と請求書や領収書等をPDFでやり取りする場合、または、インターネット画面のスクリーンショットを証拠書類として保存する場合は、個々のデータに日付・取引先・金額の検索要件を充たす名称を付けて保存する以外に方法はない。以下に箇条書きでポイントを示す。

◆ファイル名のつけ方
・日付:西暦8桁。半角入力
・取引先:区別がつけば(株)、(有)など組織名は不要。通称で可。全角入力
・金額:源泉徴収控除後の税込金額。3桁ごとに区切らない。半角入力
・スペースは入れない
・例:2022年4月1日、(株)国税商事、132,000円の場合、20220401国税商事132000
◆ファイルの保存先
・Windowsのフォルダに保存すれば検索要件を充たす
◆フォルダの階層
・第一階層は「電子取引データ」
・第二階層は「課税期間」。法人は決算期、個人事業主なら「2022年分」など。
◆フォルダの保存先
・保存期間要件を充たせる場所に保存
・ローカルPC、Googleドライブ、DVD、外付けHDなど
・バックアップを取る

以上は自社で保存する場合の方法だ。手間の削減を優先している。

一方、取引先に請求書をPDFで交付する場合は、国税庁推奨の名称(20220401_132,000 _(株)国税商事)を付けて交付すると喜ばれるかもしれない。細やかな気配りを重んじる日本人の国民性を考えるとそうやって交付するのがデフォルトスタンダードになる可能性もある。いち早く取り入れるのも手だと思う。

結びに

改正電子帳簿保存法の第一条を要約すると次のようになる。

「この法律は、納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減するため特例を定める。」

負担を軽減してビジネスの生産性を高めるという法の趣旨に照らせば、クラウドサービスの積極的な利用は不可避だと考える。むしろ、それを前提としている意図が透けて見える。

ただし、保存要件を充たすかどうかの判断は依然として納税者側に委ねられている。世の中には無数のクラウドサービスが存在するため、お墨付きが欲しい方は、認証機関JIIMAの電子取引ソフト法的要件認証を受けているクラウドサービスを利用すればいいと思う。しかし、認証済みのサービスは少ない。また、JIIMA認証が法的要件とはなっていないので、この稿を参考にしっかり自分で検討するのが実務的だとは思う。

なお、JIIMA認証を受けていないクラウドサービスを利用する場合、バックアップのためにcsvやPDFを保存するのは当面必要な措置だと思う。クラウドサービスは仕様の変更が頻繁にあるからだ。先述のマネーフォワードも仕様変更が頻繁にあるので、念のため、当面はマネーフォワードに縛られない工夫が必要だと思う。

そして、今後の法改正にも注意したい。近年の矢継ぎ早な要件緩和の傾向を鑑みると検索要件がもう少し緩和される可能性は低くない。その際は改めてお伝えしたいと思う。